拷問裁判~屑への鉄槌~

小森 櫂

第1話 プロローグ

 午前0時。そろそろ終電もなくなる時刻だが、駅前の繁華街はいまだ人通りが多く、ネオンが煌々と輝いている。

 けれど、賑やかな表通りから一歩路地裏に足を踏み入れると、光も騒音も届かない別世界が広がっている。

 狭く薄暗い場所にジッと身を潜めれば、飲食店が多いからであろうか。

 肉の焼けたような香ばしい香りやアルコールの臭いの中に、饐えた臭いが混ざり合い、鼻腔をツンッと刺激する。

 近くの換気扇から排出される熱気に顔を顰め、周囲を見渡す。

 視界に入るのは、非常ドアの緑の光や、小さな小窓から漏れる明かり。そして、表の通りからかすかに差し込む光が照らしているだけで、数メートル先にあるものなど殆ど見えない。

「好都合じゃん……」

 男はニヤリと口端を上げ、息を潜めて獲物を待った。

 ただ静かに。

 音も立てずに。

 鋭い双眸を闇の中に光らせながら――


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