第31話:ドラゴンと冒険者たち

「リリィ、タオルもっとふかふかのやつ持ってきて」

弓使いが片足を湯船の外に出しながら、リリィに指示を出す。


「それから、お茶のおかわり。紅茶が冷めてきちゃったわ」

魔法使いがカップを軽く振りながら、リリィを見つめる。


「リリィ、この浴衣、もっと色の明るいのない?私の肌に合わない気がするのよね」

シーフは浴衣の裾を摘みながら、不満げに呟く。


(まったく、どいつもこいつもわがままなんだから!)

リリィは心の中で叫びながらも、笑顔を作って対応していた。

「はーい、今すぐ持ってきますね!」


冒険者たちの要求は多岐にわたり、リリィは次から次へと動き回っていた。そんな中でも、彼女は何とか笑顔を保ちながら言い聞かせる。

(ご主人様のダンジョンを守るためなんだから、耐えなきゃ……でも疲れる!)


その夜、温泉の入り口から新たな訪問者が現れた。漆黒の髪と金色の瞳を持つ絶世の美女――人間の姿をしたドラゴンダンジョンの守護者ルシアだった。彼女は普段の威厳を抑え、軽く微笑みながら浴場へと向かう。


「やっぱり何度来ても素晴らしいわ」

彼女は静かに湯船に浸かり、その優雅な姿は他の誰よりも目を引いていた。


同じく湯船に浸かっていた冒険者たちはその存在感に気づき、弓使いが小声で呟いた。

「……あの人、ただ者じゃないわね」


「ええ、何か雰囲気が違う。普通の客じゃない気がする」

剣士が警戒心を露わにしながら、ルシアを観察する。


ルシアは湯船の中からリリィが忙しそうに動き回る様子を見つめ、優しく声をかけた。

「リリィ、大変そうね。あまり無理しないように」


リリィは驚いて振り返った。

「ル、ルシアさん!お越しくださったんですね!」


ルシアは微笑みながら頷いた。そして、冒険者たちに視線を向けると、その目は一瞬だけ鋭さを増した。

「少し言わせてもらうけど、リリィをあまり困らせないことね。この子は飯ダンジョンにとって大切な存在なんだから」


その言葉に冒険者たちは一瞬たじろいだ。弓使いが思わず口を開く。

「別に困らせるつもりなんてないけど……それにしても、あなたは一体何者?」


ルシアは優雅に湯船から立ち上がりながら、静かに答えた。

「私はただの常連客よ。でも……もしこの子を傷つけるようなことがあれば、見過ごすつもりはないわ」


その言葉に込められた圧倒的な威圧感に、冒険者たちは無意識に背筋を伸ばした。


ルシアが立ち去った後、冒険者たちは顔を見合わせた。魔法使いがぽつりと呟く。

「……あの人、ただの客じゃないわね。何かとんでもなく強い気配を感じた」


剣士が頷きながら付け加える。

「ええ、私たちでも太刀打ちできるかどうか怪しい。あんな人を敵に回すのは得策じゃないわね」


シーフが肩をすくめた。

「ま、リリィにちょっと手を貸すくらいなら悪くないかもね。それくらいで恩を売れるなら安いもんでしょ」


弓使いも苦笑いを浮かべながら同意する。

「そうね。これからはもう少し協力的にしてあげましょうか」


冒険者たちが態度を少し改めたことで、リリィはようやく余裕を取り戻した。

「ふぅ……ルシアさん、本当にありがとうございます。おかげで少し楽になりました」


ルシアの言葉が冒険者たちに与えた影響は大きかった。リリィは心の中で改めて感謝した。

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