魔宮の広がる世界から

稲山 裕

プロローグ

    


 この部隊の人たちとはそりが合わない。

 それは、最初から分かっていた。

 けど、私みたいな駆け出しの魔法士なんて、誰も仲間に入れてくれない。

 かと言って、駆け出し同士で組むなんて、もっての他。

 死にに行くようなものだ。

 生活のための迷宮潜り。私は国からの強制だけれど。

 でもそれは、自分や誰かの命を守るためでもある。

 やりたくなくても、才能がなくても、やらなければ人は、生きられない世界になってしまったから。



 この世界には、いつからか迷宮が生まれるようになった。

 少なくとも、私が生まれるずっと前から。

 そこからは魔物が際限なく湧き続け、迷宮から這い出てきては人を襲う。

 放置しておくと、それは群れとなって町を滅ぼすほどになる。

 いずれ、国を飲み込むほどの数に。


 最初は軍が処理した。

 けれど、無限に湧き続ける魔物を相手にするには、国の予算では賄えなくなった。

 銃火器は有効だったけれど、弾が足りなくなったのだ。

 なにせ、世界中に迷宮が生まれたから。

 全世界で火薬が不足し始めた。

 銃の製造が追いつかなくなった。

 銃社会の国では、買い占めと買い溜めで市場から一瞬で消えた。

 結局、軍にも銃弾が回らなくなった。

 どの国も、もはや余分な火薬がないし、兵士の数も足りない。

 結局は、全ての人々が自衛しなくてはならなくなり、一時は人口が半分にまで減った。


 魔物は、無限に湧き続けてくるからだ。

 ただひとつ良い点があるとすれば、魔物は食料や生産素材になること。

 動物のような魔物は肉や油に。

 植物のような魔物は野菜や木材に。

 鉱物のような魔物は金属などに。

 倒せば手に入るそれらを、せっせと解体して食料や材料にするのだ。

 畑や森を管理する時代は終わった。

 魔物を倒す人手が足りないからだ。

 その代わり、倒せばそれらが手に入る。


 ただし、大量生産など出来はしない。

 自転車操業で、きっと、いつかは今のバランスが崩れ、人は滅ぶのだろう。

 私はそう思う。

 皆も、きっとどこかでそう思っている。

 けれど、今が良ければそれでいい人たちには、楽しい世界でもあるらしい。

 強ければ持てはやされ、何をしても許されることもある。

 でも、弱者が虐げられ奪われるという、私にとっては嫌な世界。

 


 今の主な武器は、刃物や鈍器だ。

 銃火器が無くなれば、人が持つ武器はおのずとそれになった。

 ひとつ、人に大きな変化が起きたのは、魔法を使えるようになったことだ。

 ――まるでゲームだ。

 そう言って喜んだ人も、昔は居たらしい。

 ただ、ふたを開ければ、魔法と言っても生活に使える程度だった。

 それでも研究を重ねた人たちが居て、一応は魔物相手にも使えるレベルまで進化した。


 ――これで、女でも戦える。

 そう言って喜ばれるくらい、世界は、人々は、追い込まれている。

 それが今の世界だ。

 もう後が無い。

 世界中に人が住んでいたのは、とっくに昔のことだ。


 刃物や鈍器で、原始的に戦い続けるしかない世界。

 人の思考も、振舞いも、原始的になってしまった世界。

 一部のお金持ちは、懐に銃を持っているけれど……魔物には使わない。

 それは、人を脅すための道具だから。

 魔物に使うには弾が足りないけれど、人に使うには足りる。

 最も脅威的で恐ろしい武器は、結局は、人に向けるもののままだった。

 全部、なにもかも、嫌な世界だ。

 いっそのこと、悪人もろとも、みんな死んで滅びればいいのに――。

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