最強爆乳妖狐と従順爆乳人狼は肉チャーラーメン食って大ジョッキで優勝したい!

夢咲蕾花

プロローグ 肉チャーラーメン食って大ジョッキで優勝したい!

「この溟月市くらつきしに危機が迫っている」


 某所。暗闇に閉ざされた座卓に居座る数名の影が青白く幽鬼のように揺らめき、何事かの会話を交わしている。


「未曾有の危機だ。我ら〈座卓〉としても看過はできない」

溟獄めいごくより来たる厄災……やはり、回避はできぬか」

「手を打たねばこの街だけではない。日本が阿鼻叫喚の渦に叩き落とされる」


 影たちの会話は差し迫る「厄災」について、恐れをなし、だからこそそれを退けんとする意志に満ち満ちていた。

 座卓——平安の世よりこの国の暗部に存在し、政財界に影響を持ち、影の支配者として君臨する組織。だが決して表舞台に立つことはなく、怪異や怪奇、超常現象を観測し、管理する役割を担っていた。


「先刻、例の妖怪が目覚めたそうだな」

「ああ……呼び出したのは橘氏の子孫だとか。はて、これが吉と出るか凶と出るか」


 幽鬼たちが囁き合う。

 闇の中、この街の未来について案じながら。そして、ささやかながら封印から目覚めた、ある妖怪について——。


 この世界には妖怪がいる。嘘を言っているようだが本当の話だ。

 少なくとも彼らにとってそれは現実と地続きであり、揺るがぬ実像を成す者で、実在する生物だった。


×


「かんぱーい!」


 弾けるような声が居酒屋「味二番」の座敷席に響き渡った。

 テーブルには焦がし肉チャーハンが三つともやしタップリの塩ラーメンが三つに、鶏唐揚げが三人前。そして大ジョッキを手に喉を鳴らす、二人の爆乳美女。

 一人は金をそのまま糸にしたような金色の髪を腰まで伸ばした、和服で爆乳の美女。本来和服の襟は鎖骨をわずかに見せるくらいが華だが、その女は谷間まで開いて見せており、なんとも官能的である。周りの酔客たちの視線は、彼女らの胸元に向けられ、そして同席する少年には不思議そうな、そして嫉妬が入り混じった目を向けている。

 もう一人は銀髪褐色肌の爆乳美女。長い髪を背中の辺りまで伸ばしているが後頭部で結っており、まるで犬の尻尾のように跳ねて、揺れている。格好は谷間の中央に穴の空いたチューブトップに、革のジャケットと革のタイトスカート。和と洋の装いで、肌の色も好対照である。


 二人はビールを喉を噛むように鳴らして飲み、ジョッキを置くと、手を合わせて「いただきます」と言って焦がし肉チャーハンを頬張った。

 そんな美女の対面——右側は、金色の美女であるが——に座った一人の少年は、大盛りのもやしを食べ、二人の健啖っぷりに息を巻いた。


 この二人は、人間ではない。

 妖怪だ。今でこそ人間の姿だが、金髪の方——千穂川禮子ちほがわれいこは七尾の妖狐だし、銀髪褐色肌の方——大守奏おおかみかなでは四尾の狼神という妖怪である。

 壊れていた祠を直したらついてきた(憑いてきたという方が正しいだろうか)この二人は、高校一年の夏からの付き合いで、三ヶ月経った十一月末のいまも、家に居着いている。


 少年——平凡な黒髪茶色の目の橘川頼人きっかわらいとは、彼女たちとの暮らしぶりを思えば、百人の男が百二十人果報者というだろう。ちなみに増えた二十人は又聞きして増えてきた分だ。

 だが、実際には——。


「ほーれ、こんな美女が二人酒に酔うておるのだぞ。男としてすべきことをせねばなるまいよ。ほれ、襟が緩んで、乳輪が見えそうだろう……? 美しい桜色のそれが」

「抜け駆けはずるいですよぉ。ご主人様の童貞は私が貰うんですからね。なんならお尻の処女も頂きたいですねえ」

「俺の初恋は平凡であって欲しいんだけどな……なんでこうなったんだ……」


 こんなふうに、だるくエロ絡みしてくるのだ——。

 頼人はゲンナリしながらもやし塩ラーメンを啜り、肉チャーハンを掻き込む。

 彼らの日常は、概ねこのようなものだが……。


 時折、普通ではない騒動が舞い込むこともあるのである。

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