第4話 彼らの行く末
しばらくするとマオの涙は止まり、鼻をすする音だけが聞こえてきた折に、勇者シュンはとある提案をした。
「――なぁマオ、二人で旅をしないか?」
優しく抱きしめる手をそっと離し、シュンは語り始める。
「この世界のどこかに、同性同士でも子を授かれる秘術があるらしい」
「……なんですかそれ、そんなのあるわけないじゃないですか」
鼻をすすり、枯れた声で何とか声を出すと、シュウは嬉しそうにその言葉に反応をする。
「いいや、きっとある! 煙の立たぬところになんとやらだ。絶対あるに違いない!」
まるで子供の絵空事のように楽し気に語り出す。
馬鹿馬鹿しく信じられない彼の話は、まるで子守歌の様な心地よさがあり、マオは思わずその言葉を聞き続ける。
「どこにあるかも分からないし、見つかる保証も、今は無い」
でも、と。
勇者シュウはハッキリとそう言い、マオを瞳を見つめた。
「マオ、俺はお前を諦めない。二人ならどんな困難でも乗り越えていける」
先ほどまでふざけていたような態度とは一変、彼……勇者シュンは柔らかな表情でマオを見据える。
「ついてきてくれるか?」
力強く、そして頼もしい声色のまま、彼は右手を差し出した。
傷だらけで、でこぼこと歪な形をした大きな右手はまるで光がともされたように眩しく、希望が具現化したような錯覚に陥る。
この光景を、マオを何度も見てきた。
魔王討伐の為に旅を始めたあの日も。
旅の途中に仲間が犠牲になったあの時も。
眼前に広がる無数の魔物に襲われたあの瞬間も。
彼は変わらずマオに手を差し伸べて、いつだって導いてくれた。
「シュン……」
――断らなければいけない
――それが世界の為なのだから
――この手を、取ってはいけない
けれど、マオはその手を取ってしまった。
頭では理解しているし、間違った選択なのは分かっている。
それでも、本当は想っている気持ちに抗えず、シュンの提案を承諾した。
「――卑怯です、シュンは」
「何が卑怯なんだよ」
「だって、君が手を差し伸べたら、僕は断れないの知ってるでしょ?」
「へへ、マオはやっぱり俺の事好きなんだな」
「す、好きとかじゃないです! ただ、その、えっと……」
目がギョロギョロと泳ぎ、マオは耳の先まで赤くして照れてしまっている。
体もモジモジとくねらせては、シュウの顔すら直視できずに地面に向かって俯いてしまう。
しかし、握られた手を放すものかと言わんばかりにしっかりと握りこんでいる。
そんなマオに対し、シュウは屈託のない笑顔を見せつける。
「よし! じゃあ今すぐ出発だ!」
「え……えぇ!? 今すぐですか!?」
「当たり前だろ、国王にバレたらなんて言われるか」
「ちょ、待ってくださいって!」
「そんなこと言って。お前口では否定するわりに、手を離さないじゃないか」
「ん、ん~~~~!!!」
悶絶をするように唸るマオを引っ張りながら、二人は満点の星が照らす夜道を駆けだした。
勇者シュウと賢者マオは新たな旅路を行く。
今度の旅は、二人の子を宿すという前代未聞の旅だ。
これから先、彼らに色んな試練が降りかかる。
しかし、二人はどんな逆境も乗り越えていけるであろう。
その旅の果てにあるとされる、二人だけの幸せを手にするその時まで、彼らは立ち止まる事はないのだから。
END
子を成せ!と言われたが、勇者は男の娘賢者にしか興味が無い模様 芳樹 @yosikiti
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