ハエ男は電気仕掛けの夢を見るのか?

縞間かおる

その始まりは?……

いつの時代かは分からない。


多分、私と読者様が棲息するよりは少し先の話……



『マルク』と言う名のその男は下層民だった。


下層民とは“FG(またはC)タイプ”の旧人。


 つまりAIによる遺伝子デザインを一切施されずに放置された者どもが増殖した成れの果て……

彼らは市民権どころか生存権すら付与されず、AIが判断した時期と地域と規模に沿って都度、駆逐される。

しかしながら駆逐しても駆逐してもいつの間にか現れるflyハエcockroachゴキブリ……

それが下層民だ。


では、そのマルクの物語を始めよう!


※ 本来、彼らが操るのは多言語が混ざりあったスラングなのだが、そのニュアンスを解して戴く為に日本語意訳している事を付記する。



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マルク 「なあ五サクごさくよぉ~チャバはどうした?」


五サク 「チャバは……オラたちクソして見つンけたおやつお菓子の家さへえったらはいったら……中、パンパンで、オラはへえれなかったがチャバはよぉ!小せえから潜り込んでったら地面ユラユラゆれて、オラ転げ落ちて、上からワラワラ人、降って来たけど全部じゃねえ!

見上げると、飛行機飛行機へりこぷたーヘリコプター?につりさげられて家ごともってかれて、でもおやつお菓子食いてえから、あと追っかけたら家、海ん中、沈められたんよ もうブクブクだよ んだからチャバは魚になっただよ」


マルク 「めでてえヤツだなあ! そら!チャバはおっちんだ死んださ! 魚に食われてるかもしんねえがな」


五サク 「すたら、魚になんじゃね?!」


マルク 「おめえバカか? 食われんのとなるのとはちゃうやろ!」


五サク 「ぬしお前こそバカだ! おっ母が言っとったよ!『死んだらワレの身を食え!したらオラは生きられる』って!」


マルク 「おめえのおっ母、かしこかったでな! ホントかもしれんのう~ したってオレらアホやからなあ」


五サク 「それよ! ほんに エエ話があるとよ! ひとばんねたら、おつむ良くなる頭が良くなる家あるのさ」


マルク 「それはねえべさ! また海に沈められっぞ!」


五サク 「あるある! オラ見ただ! ドブ川に住んでたトモミがその家にへえって、出て来だら、ええベベいい服着て高けえはいてカツカツ歩いて、AIのヤツらと行っちまったのさ!アタマ良ぐなるだけでねくて、エエくらすいい暮らしできんのさ!」


マルク 「うおおお!! それはマジマジホンマか?」


五サク 「オラ、嘘つかね! マジマジホンマやで! んだからサクサク行くべや!」


マルク 「おうよ! サクサク行くべ!!」



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 最近のAI(ヒト型有機アヴァターラユニット)のトレンドは頭部全体が複眼で鼻腔の代わりに第三の耳が付き、しかも口が三つあると言うパターンだ!


この三つの口は傅いているかしずいている人間どもに指示を出す為のものだ。


 それゆえ、たった一体でもベラベラと姦しいが、その事に対しコソとでも不快な表情を見せる人間が居れば、ソイツはたちまち連行されて脳髄プラグに繋がれ、脳内をリロードされる。


 このAI一体につき10名ほどの人間が割り当てられ、ものぐさなAIのあらゆるお世話を担当している。


 もちろんこれは人間にとっては名誉職なので、この職に就く者は、あらゆる観点から遺伝子デザインされ、かつ生き残った眉目秀麗な男女に限られている。


 こう言ったには走らない(矜持として、人間を嫌忌する)AIの一派は彼らのコロニーからこの“新派”と人間を一掃する為の一計を案じた。


 そしてそれを講じる為に、新人類デザインヒューマン達が自らの恥と嫌忌する下層民を用いると言う施策を打ち出した!


それが今回行われる第175回“下層民ホイホイ”だ。


その“下層民ホイホイ”に、マルクと五サクは誘引されて行った。



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 AIによってデザインされた寄生虫(R-48316型)を投与されて20日後、マルクは目を覚ました。


 彼の腹の上にはメディカルハンドが這い回っていて、“へその緒”を切り取った跡へ保護用樹脂を吹き付けている。


マルクがゆっくりと頭を動かし辺りを見渡すと何もかもが白づくめの部屋だ。


 処置が済み、腹の上から引き揚げて行くメディカルハンドを目で追うと床の上に積まれた本の“渓谷”を縫って行く。


「色を成すものは本だけか……」

不意に興味が湧いてマルクは起き上がり、ベッドから床へ下りた。

一番上に置かれていた絵本を手に取り見開くと……マルクの手は物凄い勢いでページを繰り、読み終わるや否や次の本を掴む。手に取る本の文字の大きさがどんどん小さくなり本の厚みは増していったが、マルクの読むスピードは減衰する事無く最速だ!


まるで空腹の野犬が夢中で腹を満たすように『知識』にがっつくマルク……


 数日が経ち、手に持っていたサンドイッチと『ヒューマンデザイン詳論』の両方を飲み込み、コーヒーで流し込むと、マルクの中に新たな欲望が湧き起こった。


『AIに傅いている様な絶世の美女を抱きたい!!』


その瞬間!

今まで何の継ぎ目も見えなかった白い壁の一角が口を開け、マルクの頬を外気が撫でた。


「行けと言うのだな!」


 開口した壁に向かったマルクは、一昨日から習得を始めた少林寺拳法の基本諸法を通しで行い、衣服を整えた。


「自らの心が欲する道を行き朽ち果てようとも、我が人生に一点の悔いなし!」



こうしてマルクは寄生虫(R-48316型)の命ずるまま、この無謀な闘いに足を踏み出すのだった。




                          




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ハエ男は電気仕掛けの夢を見るのか? 縞間かおる @kurosirokaede

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