004

 山崎と一緒に帰るのは小学生ぶりだ。あの時は同じ方向だったし毎日一緒に帰ってたな。バス停に着きそうな所で山崎が口を開く。

「ねえ、どっかよらない?」

「え? どこってどこ?」

「んー……、イオンとか?」

「いいね~。そこの最近できたアイスクリーム屋さん行きたいな。」

「おっ、じゃあそこ行こう。」

 聞いた話だと韓国っぽい雰囲気で映えるとかなんとか。

 まあ、写真を撮りたいわけではないけど

「ねえ、山崎さあ。」

「ん?」

 スマホを見ながら空返事する山崎。

「好きな人とかいるの?」

 山崎は目を見開いてこっちを見た。

「えっ、あ、い、いたらどうなの?」

 明らかに動揺している。

「いや、いるのかなあって。そういえば聞いたことないから。彼女いるとか。」

 山崎はそのまま黙ってしまった。

「あ、やっぱいいや。この質問忘れて。」

「うん。」

 それから、アイスクリーム屋に着くまで気まずい空気が流れた。

 山崎は相変わらずスマホとにらめっこしいてる。

 好きな人聞いただけなのに、こんなになるとか……。

 いるのかな……。

 

 店の雰囲気はいかにも女の子という感じで、壁にはハングル文字のネオンランプが光っている。K-POPアイドルのポップな曲が流れている。

「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしょうか?」

 私はメニュー表を見ながら、指をさす。

「これと、これと、これください! あ、ワッフルコーンで!」

「かしこまりました。先にお会計いたしますので、レジにお並びください。」

「お前、食いすぎだろ。太るぞ。」

「なっ。」

 何も言い返せないのは最近本当に太ったからだ。

「六百八十円になります。」

「は~い。」

 カバンをあさる。

「あ、いいよ。俺が出すよ。」

「え、悪いよそんな。」

「気にすんなよ。俺から誘ったんだし。」

「あ、ありがとう!」

 男子に奢ってもらうとか……初めてだ。ん? お父さんのは入るのかな?

「んじゃ、おれはチョコで。カップでお願いします。」

 山崎が会計を済ませて、アイスを受け取ると近くのイートインスペースのテーブルにカバンを下す。

「おっも。」

 あのプリントのせいでいつも以上にカバンが重い。てかいつも財布とポーチしか入ってないけど……。

 二人で向かい合って座る。

 え……、これデートじゃん。

 脳裏に美沙の顔がよぎる。このこと知ったら怒るかな。でも、幼馴染として遊んでるだけだよね。うん。

 私は一番上のいちごソースがかかったアイスにかぶりついた。冷たさと同時に酸っぱさが口を刺激する。普通のいちごジャム。

「うえっ……、まずいや。」

「ははは。お前、いちご嫌いまだ治ってなかったのかよ。つか、嫌いなのになんで頼んだんだ?」

「いや、今日美沙のいちごジャムのサンドウィッチ食べた時、びっくりするくらい美味しくてさ。ためしに市販のやつ食べたらやっぱりダメだった。」

「ああ、その話してたんだな。」

 どうしよう。二個目の抹茶アイスが好きなんだけど、それを食べるには一番上のいちごアイスから食べなきゃいけない。捨てるのはもったいないし……美沙ならあげれられるのに……。

「俺にちょうだいよ。」

 そう言って、山崎は私のいちごアイスをスプーンですくった。

「え、ちょっと……。」

「え、って食べられないんだろ?」

「うん。でも、いいの? それ……。」

 私の話もよく聞かずに、山崎はアイスを食べた。

「あ、間接キ……。」

 山崎は身を乗り出して、顔を私に近づけた。

 あれ……? キスしてる?

 山崎は自分の椅子に座ると、照れくさそうに目をそらした。そして、ぼそっとごめんとだけ言い、再びアイスを食べ始めた。

 私は、ぽかんと山崎を見つめる。その視線に気づいた山崎。

「さっきの話……、さっきの話の続きだけど、俺、黒沢のことが好きだよ。」

 頭の中が真っ白で言葉が出てこない。

「返事は、いいよ。でも黒沢もその気なら、いつでもいいから返事して。ずっと、待ってるから。」

 そう言い残し、山崎は荷物をもって椅子から立ち上がった。

「今日部活サボったのも、ここに誘ったのもこれを言いたかっただけなんだ。悪いな、付き合わせて。」

「あっ、帰るの?」

「うん。今日は一緒にいても気まずいだろ?じゃ、また明日。」

 私は山崎の背中を見続けることしかできなかった。消えていなくなるまで。

 その時、メッセンジャーの通知が鳴った。

 〈今部活終わった! めっちゃキツい〉

 美沙からだ。私は、今のことを話そうと思った。でも、今メッセージを送って、明日の学校で会いづらいな。

 おつかれ!とクマが笑っているスタンプを送った。

 直接話そうかな……。

 抹茶アイスを食べながら、スマホの画面を切る。

 最後に残ったバニラアイスはいちごソースと抹茶アイスが混じり合って、汚くなっていた。

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