003
「起立! 気をつけ、礼!」
「さよなら!」
「はい、さよなら。」
放課後、私は職員室へ向かわなければならない。職員室へ向かうと、ちょうど有田先生と会った。
「お、黒沢! ちょうど良かった。」
「えっ!」
有田先生は大量に刷られた紙の束を私に渡してきた。
「黒沢のクラスも大変だね。これ、クラスのみんなに配るんでしょ? 夏休みの宿題くらいあるね……。」
「え? クラスの……?」
「なんか、佐々木先生が黒沢に渡しといてくれって。あの先生、生徒会持ってるから忙しいんだろうね。」
私は数学係ではない。ということはこれがあの例の課題なんだろうか……。
「ははは……。そうなんですよね。」
このプリントの山がすべて私の課題だということを悟られたくはなかったので、適当に合わせることにした。
「あ、今日俺早く帰らないといけないんだ。用事あってさ。んじゃ、バイバイ。」
「あっ、はい。さよなら!」
いつも整髪料で整えられた黒髪の短髪は端麗な容姿にあっている。どの角度から見ても、かっこいい!
……やっぱりあの噂、本当なのかな?
くるみんと、有田先生が付き合ってるっていう……。
彼女の看病するために仕事を早く切り上げて帰る男……なんていい男なんだ!
「げっ、これお前のなの?」
私が感激していると、後ろから山崎が話しかけてきた。
「あり得なくない? あんたにも分けてあげるよ?」
「いや、頑張りたまえよ。」
「なにその言い方、むかつくわ~。」
「え、知らないの? ショート動画で流行りのやつ。」
「誰がやってんの?」
「え? 音源だよ。みんなやってるし。」
「ふーん。」
私はカバンの中にそのプリントを押し込んだ。
「お前、もうすぐ期末なのにカバンそんな空っぽでいいのかよ。」
「まだ二年だよ? 大丈夫っしょ。」
「後々ひびきそうだけど……。」
後ろで山崎がごたごた言ってるのをよそに、私はスタスタと下足へ向かう。
「あっ、おい、ちょっと待てよ!」
「ん? なんで着いてくんのよ。あんた部活でしょ?」
「さぼり。」
にかっと歯を見せながら山崎は笑った。
「うわあ。顧問にチクるよ。」
「えっ、ちょっとそれは……。」
「冗談じゃーん。」
「あ、それレンジがやってるやつ!」
「ふふ。上手いでしょ。」
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