いちごじゃむ

001

 それはほんの出来心だった。

 まさかこんなことになるなんて。


 死んだらどうなるんだろう?

 そんな小学生みたいなくだらないことばっか考えてたら、授業中先生に当てられちゃった。

「今日は三日だから……出席番号十三番、問2、答えて。」

 なんで三なのに十三番な訳?わかるはずがない。だって考え事してたんだもん。

「(a+b+3)(a+b-5)だよ。」

 隣の席の城崎美沙じょうざきみさが小声で教えてくれた。

「(a+b+3)(a+b-5)です。」

 バレたのかガッツマン(こと佐々木ささき先生)が眉をしかめる。

「おい。答え教えんなよ城崎ィ。おら、立っとけ黒沢くろさわ。」

「はあい。」

 美沙にごめんねと口パクで言って、席を立った。

 つうか、一番前のヤツこそ立たせるべきでしょ。どこに目付いてんだか。

 机に突っ伏して堂々と寝ている山崎裕也やまざきゆうやに苛立ちを覚える。

 はあ……。ガッツマンじゃなくて有田ありた先生がよかったなあ。イケメンで優しいし。

 ガッツマンは、黒縁眼鏡にどこにでもいそうなさえない容姿。おまけにいっつも不機嫌だし。

 顔に出ていたのか、ガッツマンは目が合うと睨みつけてきた。

 私は、そっぽを向く。

 

 さっきまで考えていたことを思い出す。

 私は死んだことないから死んだ後どうなるかが分からない。死んだ人にしか聞けない。でも死人に口なしである。

 でも、ひとつだけ仮説はある。それは、夢だ。死んだら夢を見ると思う。終わりのない夢を。

 そうすれば天国とか地獄とかも納得がいく。雲の上で優雅に暮らす夢と、地底のマグマに溺れ苦しむ夢。そして、長い川を渡る三途の川の夢。小さい子はあまり経験がないから、砂場遊びの感覚で、石を詰む夢。

 この言い伝えは、死にかけた人がたまたま意識を取り戻して、この夢を見た。とくに何も罪を犯していない人は天国か、三途の川の夢。罪を犯した人は地獄の夢ってこと。となると、寝てる時が一番死に近いということになる。

 そう考えれば、夢は不思議だ。

 空を飛んだことないのに、当たり前のように空を飛んでいたり、あったことも見たこともない怪物から逃げ回ったり、芸能人や好きな人にも会えちゃうんだから。

 まあ、死にたい理由は特にないんだけど、好奇心のほうが勝っちゃうよね。

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