05

 母さんの足音が妙に気になってから数日。けれど、僕はそんなことに驚いたことも忘れつつあった。

 あれから、母さんの足音をうるさいと思うことはなく、いつものように、気が付けば食事が用意されて、そして片付けられるようになっていた。


 すっかり足音のことを忘れ、いつものようにゲームをしていると、ピンポーン、とチャイムが鳴る。我が家のチャイムは大きいので、二階にいても、うっすらと聞こえてくる。


 ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン。


 連打されるチャイム。ほとんど隙間がない。

 ……母さんはいないのだろうか?


 専業主婦の母さんは、基本的にいつも家にいたはず。というか、ついさっき、出来立ての昼ご飯を食べたばかりだ。

 ゲームを一時停止にして、僕はそっと扉を開く。さっき置いた、使用済みの食器が置かれた盆が消えている。すっかり片付けられていた。

 玄関を開閉する音は聞こえなかったし、いると思うんだけど……。


 ピンポーン、ピン、ピン、ピピピピ。


 チャイムを連打するスピードが上がる。よっぽど切羽詰まっているのだろうか。

 僕は、部屋のカーテンを開け、窓から下を見る。真下にある玄関は窓を開けて乗り出さないと見えないが、インターフォンがある門のところは、窓に近づいてカーテンを開けるだけで見える。


 じ、と見ていると、数人の、ランドセルを背負った、男女入り混じる小学生たちが我が家のインターフォンを鳴らしていた。僕の小学生時代と違い、皆、随分とカラフルで個性的なランドセルを背負っているが、やっていることはピンポンダッシュという。そういうイタズラはあまり時代を問わないのだろうか。一回押して逃げているわけじゃないけど。


 ――と。


「わぁあああ!」


 深緑のランドセルを背負った男の子と目が合ったかと思うと、彼は悲鳴を上げた。声変わりも始まっていない男の子の声は高く、窓を閉め切っていても聞こえてくる。


「やっぱりお化け屋敷じゃなくて、人いるんじゃん!」


 こちらを指さしながら叫んだかと思うと、そのまま彼らは逃げて行った。


 ――……お化け屋敷?


 僕はそのまま、額を窓につけるくらい、ぎりぎりまで近寄って、下を見る。窓を開けているわけじゃないから全て見えないけれど、しかし、見えている範囲の庭は、随分と荒れていて、廃墟でよく見るような草木が生えていた。名前は知らないけれど、人くらいの高さまで平気で育つ雑草。


 おかしいな……。

 庭は母さんがしっかり手入れをしていた。その記憶は二十年くらい前のものではあるけれど、少なくとも物干しざおが庭にあり、そこで洗濯ものを干しているのだから、最低限の掃除は、今でもしているはず。我が家に室内干しできる場所はないし、母さんにとって室内干しは悪臭の原因になるものだから、いつの間にか室内干しに変わっていた、ということは考えにくい。

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