04
気味の悪い妄想をしてしまったからか、食べ終えた食器を外へ出すために、扉を開けるのがなんだかおっくうになってしまった。それでも、食器を部屋に放置するわけにはいかない。さっきみたいに、ハエがたかるようになったらどうするのだ。
扉を開け、シュッと盆を置き、すぐに扉を閉める。
普段は何も考えずに行っていたのに、今回ばかりは、こんなにも手早く食器を置いたことがないくらい、一瞬でやった。
扉の前に、知らない誰かが立っている、なんてことはなく、普段と何も変わらない。
「……アホらし」
僕はベッドに寝そべり、適当にスマホをいじる。当然、面白い話は何もない。
動画サイトを開くも、変わり映えしない動画ばかりがおすすめ欄に並んでいた。
嫁姑、先輩後輩、上司部下、店員と客。立場が変わるだけで、主人公が困らされた相手が、失敗して恥をかき損をし、スカッとする、という動画。使われているのは、ほとんどがフリー素材で、誰が作っても変わらないような、一種のテンプレが完全に出来上がっている、作品ともいえない消費コンテンツ。
実際、気が付かないうちに、投稿者が変わっている、なんてこともあった。
見ていると時間を無駄にしている気にしかならないのだが、妙な中毒性があって、つい見てしまう。ほとんど内容が変わらないから、見始めた時点でオチが分かってしまうのだが。
「――……」
それでも、なんだか、動画の内容が頭に入ってこない。扉の外に意識が向いているからだろうか。
食器を取りに来る、母さんの足音が気になる。また駆け上がってくるのかな。流石にそれはないか?
そんなことばかり考えて、動画に集中できない。いや、集中して見るようなものでもないんだけど。
――この春は旅に出よう!
急に、脈絡のない言葉がスマホから聞こえてきて、僕の意識はそちらに戻る。
さっきまで、彼氏に付きまとう勘違い幼馴染女にぎゃふんと言わせる動画が流れていなかったか。旅ってなんだ。
しっかりと画面を見ると、いつの間にか、別の動画が再生されていた。彼氏彼女の云々話はいつの間にか終わっていたらしい。広告が流れている。
「次のおすすめ動画は……ああ、これは駄目だ」
宗教絡みで起きた、闇深い事件五選。そんな感じのタイトルが付けられている。
カルト宗教と陰謀論。その類のジャンルの動画は、極力見ないようにしていた。なんというか、引きこもっているにも関わらず、こういう情報ばかり得ていると、どうにも考え方がおかしな方向へ捻じ曲がる気がして、怖くて見れていない。
動画に飽きたこともあり、僕はスマホの電源ごと落とす。
「…………」
僕は少し考えて、そっと扉を再び開ける。
そこには、先ほど食べ終えた後の食器は、もう、なくなっていた。
やはり、母さんは足音なく、後片付けをしたらしい。
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