第二十話 『繰り返される死』


「どうしたの? 変な顔して……ってちょっと大丈夫!?」


 地面に蹲って腹を抑え、嘔吐するアッシュ。


 駆け寄ってきた少女が、その背中を摩りながら顔を覗き込んでくる。


「エレナ……」


「何? それより、体調悪いなら先に言ってよね!」


 伸びてきた手が、アッシュの額に当てられる。


「熱はないみたいだけど……一体どうしちゃったの?」


「だい……じょうぶ。少し、緊張していただけだ」


「そう? ならいいけど……どうする? 今日は迷宮に潜るのやめておく?」


 エレナの心配する声をよそに、アッシュは思案する。


「──迷宮を出よう」


 アッシュはエレナの手を引っ張る。


「ちょ、ちょっと! アッシュ?」


 何も言わずに洞窟を歩いていくアッシュの背中に、困惑したエレナの声が投げかけられた。



 ――――――――――――


「……な、んで」


 目を離したのは一瞬だった。


 その数分の間にエレナは消え、数時間後に発見した時には用水路の水に浮かんでいた。


 そしてまた鐘の音が鳴る。


 ――――――――――――


 半ば宿の一室に軟禁するようにして、数時間が経った。


 部屋の扉の前、座り込んでいたアッシュはエレナに声をかける。


「エレナ?」


 ノックしても返答はなく、意を決して扉を開ける。


「……エレナ? エレナ!」


 部屋の中にはエレナの姿はなく、窓が開いていた。


 慌てて窓から身を乗り出してその姿を探すと、こちらに気がついたエレナがアッシュに向かって舌を出してあっかんべをしていた。


 数時間後、街の外れで胸を貫かれてエレナは死んでいた。



 鐘の音が鳴る。


 ――――――――――――


 投げやりになったアッシュは迷宮の第四階層を踏んだ。エレナと共に三階層を突破し、四階層の地で戦っていた。


 突然迷宮が変化を起こし、アッシュとエレナは離れ離れになった。


 四階層を必死に探し回って、ルシウス一行に出会った。


「仲間が魔物にやられた所を見つけたって言っていたんだ。もしかして君の連れか……?」


 ルシウスがエレナの遺体を抱えていた。



 また、鐘の音が鳴る。



 ――――――――――――


 繰り返されるループの中でわかった法則は二つ。それは、アッシュが死ぬと、迷宮の入り口に戻ってくるという事。


 そして、夜の時間になっても、自動的に鐘の音が聞こえて巻き戻されるという事。


 つまり、アッシュが死ぬか、もしくは深夜になるとゲームオーバーと見なされて開始地点に強制的に戻される。


 時間制限ありの強制時間遡行。付属品は死に戻り、だ。


 どうすればこのループから抜け出せるのか、どうすれば自分は死なずに済むのか、どうすればエレナは死なずに済むのか。


 アッシュにはもう何一つわからなかった。

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