秩序の剣

 

 ガラハッド――現実では歴史学者として古代文明の研究に没頭する彼は、VRMMORPG『アヴァロンオデッセイ』でもその知識と好奇心を発揮していた。ゲーム内で「学者」として活動し、伝説や謎を追い求めているが、彼はゲームそのものに違和感を感じ続けている。


 カリスタ――彼の助手であり護衛役。剣術に優れ、戦闘のほとんどを引き受ける頼れる存在だ。しかし、彼女はあくまで「これはゲーム」と割り切っており、伝説や謎解きにも大して興味を持っていない。

「先生、ゲームを現実みたいに掘り下げすぎると疲れるよ」

 彼女の軽口は、ガラハッドの真剣さに対する苦笑いの裏返しでもあった。



 ある日、ガラハッドはゲーム内掲示板で興味深い投稿を見つけた。「秩序の剣」に関する噂だ。そこには「剣を守る遺跡」と「古代文字を解読した者だけが剣を得る」と記されていた。


「古代文字か……この遺跡には興味がある」

 ガラハッドは資料を手に、掲示板に記された場所を確認した。


「先生、また遺跡?剣なんてただのゲームのレアアイテムじゃない?」

 カリスタは呆れたように言った。


「だが、記録されている文字が『古代ケルト語』だとしたらどうだ?なぜこの言語をわざわざ使う必要がある?」

 ガラハッドは目を輝かせた。


「ケルト語って、そんなの先生みたいな人しか読めないじゃん。ゲームにそんな謎解きが必要?」

 カリスタは首を傾げた。


「そこだ。この言語は、普通のプレイヤーどころか運営にも意味を隠せる暗号として使われている可能性がある」

 ガラハッドの声には興奮が混じっていた。

「これはただのアイテム以上の何かを隠しているに違いない」



 霧に包まれた谷の奥、二人は目的地である遺跡に到着した。そこには古びた石柱群が並び、その中心には他の柱よりも一際大きな柱が立っていた。


「これが……」

 ガラハッドは柱に近づき、表面に刻まれた文字をじっと見つめた。


「先生、普通にこのゲームの言語じゃないの?」

 カリスタが後ろから声をかける。


「いや、これは古代ケルト語だ。しかも、非常に高度な詩的表現を使っている」

 彼は荷物から辞書を取り出し、解読を始めた。



 ガラハッドが文字を読み進めるたび、遺跡が振動し始めた。石柱が淡い光を放ち、周囲の霧が揺れ動く。


「先生、これ絶対何か出てくるよ!」

 カリスタが剣を構えた瞬間、霧の中から巨大なゴーレムが現れた。


「私が戦うから、解読に集中して!」

 カリスタはそう叫びながらゴーレムに向かっていった。



 ゴーレムを倒した後、遺跡の中心に光の柱が現れた。その中に浮かび上がった宝箱が、静かに地面に降りる。


「これが……秩序の剣か」

 ガラハッドが宝箱を開けると、中には銀色に輝く長剣が収められていた。刃には複雑な紋様が彫られ、柄には「秩序の剣」と刻まれている。


 カリスタは剣を一瞥し、満足げに言った。

「やっぱりね、ただのレアアイテムじゃん!ゲーム的に考えればこれが答えでしょ?」


 だが、ガラハッドは剣を手に取り、真剣な表情で言った。

「いや……この剣、そしてこのケルト語の記録。これらはただのゲーム的演出では説明がつかない」


 遺跡を後にする道中、ガラハッドは剣を握りながら考え続けていた。


「なぜ古代ケルト語を使った?この剣を手に入れるためだけに、そんな手間をかける必要があるだろうか」


 カリスタがちらりと彼を振り返り、肩をすくめた。

「先生、考えすぎだよ。ゲームなんだから凝った演出くらいあるでしょ」


「だが、これは凝った演出ではない。あの文字は、何かを隠すための暗号のように感じる……まるで運営にすら隠したいものがあるかのようだ」

 ガラハッドの声には疑念が滲んでいた。


「まぁ、そう思うならまた次の遺跡を探せばいいじゃない。ほら、楽しむのが一番だよ」

 カリスタは軽く笑いながら歩き続けた。


 だが、ガラハッドの心に残った違和感は消えなかった。剣に刻まれた紋様、そしてケルト語で語られる詩。そのすべてが、まるで彼に真実を隠そうとしているように感じられた。

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アヴァロンオデッセイ 鬼の子マイク @Oninoko3

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