第26話 夢見有栖
「それではこれより六回戦を始めます!」
会場内にアナウンスが響き渡った。試合開始のブザーが鳴ると同時に対戦卓に座っている人々は一斉に動き始めた。
「この人数でやると圧巻ね」
「公式の大型大会だと更に増える……私も参加したことはないが審判の皆さんは大変だな」
京子と奈々子は会場を歩きながら互いに感想を交えていた。ここにいる参加者は全員二次試験を通ったシーズンカードに対する基本的な知識を備えた人しかいない。また一人を除けばどこかの事務所に所属している芸能人の為、二人が会場にいても特に気にもされていなかった。
「スイスドロー形式だっけ? それで買った数が多い人を集めて最後にトーナメント形式を進めるんだよね?」
「そうだな」
「この人数全員を見るのは難しいけど、それならトーナメントに残った子をしっかりと見れるわね」
奈々子の言う通り、二百人を一人ずつ見てシズドル候補を選定するのは難しい。シーズンカードの実力を持ちながらアイドルにふさわしい人物を決めるにはこの形式は適していた。二人は壁際まで歩くとあたりに人がいないことを見てから壁に背を向けて会場を見渡した。
「長谷川さんが見込んだ子は今のところ全勝だって」
「あのモデルの子だな」
会場の中でもひときわ目立つ金髪碧眼の女性。十代に人気の女性誌で現役モデルをしている彼女の名前は
「京子ちゃんと同じで趣味にシーズンカードって書いてたみたいだけど、実力も本物みたいね」
「みたいだな」
気になった京子はここにくるまでの間に彼女の背後を通って使用しているデッキを確認していた。彼女が使用していたのは以前京子が大会で使った相手の盤面や手札を除去しながら戦うデッキだった。幅広く戦える半面、相手の使用するデッキに応じた戦術を求められるタイプのデッキがゆえにシーズンカードの知識がかなり必要なデッキでもあった。それを選んでここまで全勝な時点で実力は証明されていた。
「京子ちゃんが気になっていた子はどうなの?」
「初戦で負けたみたいだが、そこからは持ち直しているな」
天音舞花は現在四勝一敗と受付だと集計しているスタッフから聞いていた。
「この場で全勝できないようでは見込み違いだったか……」
「私は持ち直してここまで五連勝するのも凄いと思うけどな」
奈々子の言葉にも一理あった。負けた時、いわゆる後がなくなった状況でこそその人間の真価が問われるのも事実ではある。それでも京子が新しいシズドルに求めている人材としては今のところ長谷川の見込んだ有栖の方がふさわしいように思えた。
「次の試合が終わったら一度休憩を挟んで、その後成績が上位の一六人でトーナメントなんだよね?」
「そうだな」
三次試験の参加者は二百人。予選のスイスドロー形式は七試合行われる。単純な計算で全勝者が二名、一敗が十二名、二敗が二名の合計十六名がトーナメントに上がる。その点でいうと天野舞花も十分決勝トーナメントに入り込む可能性があった。
「長谷川さんも大変ね」
試験会場には審判として雇ったスタッフとシズドルとしてふさわしいかどうか採点している事務所のスタッフが徘徊している。本番はこの後行われる決勝トーナメントではあるが、念のためにと長谷川は予選でも人員を割いているようだった。当の本人も会場の中を歩き回って一人一人を見て回っていた。
「……シズドルを思っているのは本当なんだな」
「それ、本人に直接言ってあげたら喜ぶと思うわよ」
新しいマネージャーに代わるといわれた直後は不信感しかなかった強固だが、夢咲有栖を時期シズドル候補として見込みをつけていたり、今日この日までの彼の行いを見ていた京子は長谷川の評価を見直していた。
「残り時間十分です!」
会場内にアナウンスが流れる。制限時間内に決着がつかない場合は両者敗北となる為、試合の展開が進んでいない卓では残り時間を聞いて目に見えて焦りが見て取れた。夢咲有栖のほうを見ると彼女は変わった様子はなく、落ち着いてプレイを進めていた。
「どんな状況でも平静を保つ大切だ」
「アイドル業でも必要な素質ね……そう考えるとカードゲームとアイドルって似ているかもね」
対面の相手の思考を読んだり、あらゆる状況に対して最適な回答を求められる点は類似している。彼女の発言は的を射ていた。
「もう少しだけ私たちも見て回りましょうか」
「そうだな」
これから共に同じグループとして活動する人を選ぶ場で後悔はしたくない。二人は対戦が行われている席に向かって再び歩み始めた。
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