妹がカードゲームでアイドルの頂点を目指すまで!

灰冠

第1話 朝目が覚めたら妹になっていた

朝目が覚めたら妹になっていた。


この言い方だと説明が足りない。正しくは朝目が覚めたらこの俺、天音演二あまねえんじの意識が実の妹である天音舞花あまねまいかに入り込んでいた……というのが正しい。


(どうなっているのよ!)


妹の舞花が一人、心の中で叫んだ。しかし、これは俺が出した心の声ではない。本物の舞花が叫んでいるのである。

今現在、妹の舞花の体の中には二つの意識が共存していた。

一人は社会人一年目の絶賛社畜道を究めている俺、天音演二である。

そしてもう一人がこの体本来の所有者である妹の天音舞花だ。


「夢でも見ているのか?」


俺はそう思いながら妹になった自身の頬をつねる。


(痛い、痛い、痛い、その手を離せバカ兄貴!)


心の中で妹が悲鳴を上げる。夢ではなく、しかも痛みは共有されているらしい。


(何が起きているのよ、なんで私の体の中にクソ兄貴がいるの?)


どうやら妹の方も困惑しているみたいだ。それは当然で、俺達は別にファンタジーな世界の住人じゃない。ごく一般の、地球に生まれた日本人である。


「体の優先権は俺にあるのか……」


両手でグーとパー繰り返したり、体をひねったりして状態を確かめる。


(変なところ触ったら殺す)


妹から殺害予告を受ける。


「実の妹に手を出すわけないだろ」


妹の声で俺は呆れたように返す。心の中にいる妹はみじんも信じていないようだった。


(あっ……変態兄貴、今何時?)


突然焦ったような声で心の中の妹が尋ねてくる。部屋に飾られていた時計を見て確認する。


「朝の六時だ」


はたから見ればひとりごとをぶつぶつと言っているなんとも奇妙な光景だろう。


(嘘、もう時間がないじゃない……なんでよりにもよって今日なのよ!)


「なんだよ、今日は日曜日だろ? 何か予定があるのか?」

(うっ…………それは)


心の中で妹が言葉に詰まるのが分かった。そして舞花はなぜ焦っているのか理由を告げた。


(今日、シズドルのアイドルオーディションがあるのよ)

「あー……今日だったのか」


妹がアイドルのオーディションに申し込んでいたのは知っていた。

合格する為、今まで拒絶していた俺に対して突然シーズンカードゲームについて教えてほしいと懇願してきたことを思い出す。全てはこの日の為に、アイドルになる準備を進めていたのだ。


(終わった……もう私、死ぬわ)

「待つんだ妹よ。 これは逆にチャンスじゃないか?」


俺の言葉に舞花は心の中で「え?」と言葉を返す。


「俺が教えたとはいえ、お前はまだシーズンカードの知識が十分とは言い難い……対して俺はもう何十年もシーズンカードに精通したエキスパートだ、つまり……」

(私の体と兄貴の知識でオーディションを受けるってこと?)


舞花は俺が何を言いたいのか理解したらしい。俺はにやりと舞花の顔で悪そうに笑う。


「最強のルックスに必要な知識を兼ね揃えたハイスペック人間の誕生だ」


シーズンカードゲームを通してアイドルの頂点を目指す兄と妹の物語が始まろうとしていた。

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