Forever Love


メゾン・ド・木村さんが僕に向けた銃口がきらりと光る。


「あなたにはうちの『タワマン製菓』のキスウマカ棒計画に協力してもらうわ。そのために拘束します。それに私ね、パパに言われてるの、キスがうまいだけの男にだけは気をつけなさいって」


僕「そんなぁ……」


たじろぐ僕。


せめてキスだけはしたかったっすよ……


しばらくして上空にヘリが到着した。その中からパパが彼女に叫ぶ。


「タワ美ー。タワ美!大丈夫かー?その男がキスのやつだな。よーし、今屋上に降りるから」


「わかったわー、タワパパー」


どうもヘリにはいいイメージがない。


僕はとても疲れて無抵抗でヘリに乗った。


そしてそのまま、ライバル会社のタワマン製菓のタワマン工場に移動した。


タワマン型の工場では24時間体制でウマカ棒を作っていた。


タワマンだけあって生産ラインが下から上に向かって垂直に流れていた。


僕はそこでずっとキスを抽出された。


ずっと長時間、高度なキスを要求された。


まるでドストエフスキーがまわりくどく長ったらしく描く接吻みたいに……。


そして、どんどん“キスウマカ棒”が出来上がっていく。


これを食べ、人々はキスに溺れてゆき、操られ、やがてこの親子に支配されていくのだろう。


暗澹たる気持ちのまま空からキスをし続ける僕。


ほとんどキスだけの廃人のようになりかけていた。


だが、神はいた。


そのとき実は水面下ではこんなことが起こっていたのだ。


どんどん世の中にばら撒かれるキスウマカ棒、ところがたった一人だけこれを食べても全く平気な人がいた。


お分かりだと思う。


そう


── 元カノです。


彼女は僕に完全に冷めきっているので、まったくこのキスが効かないのです。


《一口齧った時の彼女》


「あ、あいつだ」


“めどくせーけど一応通報すっか” by元カノ


そして運命の日に元カノとあのお巡りさんがタワマン工場に現れた。


キスウマカ棒1億二千万本達成の日。


「ちみ、ちみー、助けに来たよー」


あ、ありがとうございます。


元カノはぐったりしている僕を抱き起こしてくれた。


元カノ「勘違いしないでね」


僕はすでに勘違いしていた。


こうして僕は救われた。そしてこの国の平和も。


この会社にはのちに強制捜査が入って潰れた。たぶん株主たちに怒られまくっただろう。


元カノ「あんたってさー」


僕「は、はい」


元カノ「ほんっとにキスがうまいだけよね」


僕「すいません」


すいません


でも、ありがと。


とにかく元カノはまだ、僕がキスがうまいということだけは認めてくれているみたいだった。






                (青雲編) 完

        

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キスがうまいだけの男 ブロッコリー展 @broccoli_boy

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