第1話 あらめて逢う

「えーっと、070-2435-391………」


 メモ帳に、控えていた番号をスマートフォンに入れる。


「よし、914合ってるわ、よし」


 確認して、発信するわたし。


『あっ、今待ち合わせ場所にいます』


 男が、電話に出る。


「あの、すいません!」


 スマートフォンを、耳に当てている人を探す。


『えっ? どうしました?』


 不思議そうな声を出す男。


「ちょっと、遅れそうなんです」


 少しウソを言って、様子をモニタリングする。


『あぁ、メッセを送ってくれたら』


 普通はね。


「せっかく、電話番号を交換したのですし、走りながら打てなくて」


 ホントは、約束の1時間前にここへ来ているの。


『あぁ、気をつけて来てください』


 電話なのに、ペコッとしている男性。


「もう、着きました」


 ちょっと、ビックリさせてみる。


「あっ、アトラフィルさん?」


 思ったより、優しそうな男の人だね。


「はい、アトラです。アファエル・ファネンさん?」


 そう、聞いてみると、


「そうです。とりま喫茶店でも行きます?」


 アファエルさんが、向こうを指差す。


「はい」


「やっぱり、アファエルさんって三浦アキさんだったのですね」


 わたしの目に、狂いはなかったわ。


「えっ、どうしてそれを」


 少し、驚いた表情を見せるアファエル。


「わたし、ジェットモービルレースが始まってすぐ、魅力にハマっちゃって」


 空を、自由に飛ぶのって人類の夢よね。


「へぇー、そうなの」


 ブラックコーヒーを、グビッと飲むアファエル。


「空中の格闘技じゃあないですか! いつぶつかって落ちるかハラハラするし!」


 あぶないギャンブルよね。


「まぁね」


「そこで、推しの選手に出会えたんです! ルックスも、わたし好みな新人選手」


 合掌するわたし。


「ふーん」


「でも、その人は新人王を取った後で、すぐやめちゃった」


 わたしは、背もたれによりかかる。


「もしかして」


 カップを、口につけたまま止まるアファエル。


「そう。アファエルあなたよ」


 アファエルを、指差すわたし。


「………もう、昔話はそのくらいにして、ママ活の件を話そう」


「それでね、あの」


 そう、話かけると、


「アトラフィルさん」


 そう、名前を呼ばれる。


「はい」


「オレの中で、こういう会い方した人で10人中9人は、絵とかなにか買わせようとしたり、詐欺にかけようとしたり。アトラフィルさんが、そういう人じゃないっていうのはわかったけど」


 疑いの目で、わたしを見るアファエル。


「えっ、他にも会ったりしてるんだ………」


 そっちの方が、気になってしまう。


「キミだって、そうだろ?」


「ううん、はじめてです」


 こういう会い方は、ちょっと勇気がいるから。


「ホントに?」


「うん、だってホスト行ったら、ドンペリあけろ、ドンペリあけろって。イヤになったの」


 冷静になったら、ちょっと無理かなって。


「ホストに、ハマってたんだ?」


「ハマってはない」


 そこまで、盲目に好きになった人がいなかったのかも。


「へぇ、なるほど」


 腕組みして聞いていたアファエルが、ほどいて背もたれに背中をつける。


「今日は、恋人ってことで」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る