第2話

「んむっ……」


 帰るや否や、挨拶すらなくソファに押し倒してきたその子は、私の唇を貪りながらシャツのボタンを一つ、二つと外していく。


「ちょ、ちょっと待ってっ、そこまでは許してない!」

 ボタンの最後の一つが外されて、思わず押し退けようとするが、しかし非力な私が押し倒してくるに抵抗して勝てるはずもなく。


「痛っ」

 ちゅうと、音を立てながら鎖骨のあたりを吸われる。絶対変な痕出来ると、確信出来るくらいの音と痛み。


「や、やめ……」

「いーや」


 身体が無理ならせめて顔だけでも押しのけようと手を伸ばすと、手首を掴まれる。これで無事に動かせるのは足だけだ。

 しかし、分からない。この行為の意味がだ。


 口を吸うのは、まぁあれだよね、接吻だ。だから、それはまぁ分かる。

 なら、身体を吸うのは何? ――分からない。

 ぬめりを帯びて、少しだけざらりとした舌は、私の柔肌を少しずつ下に降りて行く。


「……邪魔だな、これ」

「まっ」

 その舌がブラジャーに差し掛かったあたりでボソリと呟かれるので、反射的に、思わず身体が跳ねた。


 ごん、と。

 唯一押さえつけられていなかった左の膝が、死角から顎に直撃し。

 あまりにも綺麗に決まった膝蹴りは、格上の相手の意識を刈り取るのに十分な威力を持っていた。


「はぁ、はぁ、はぁ……」

 力が抜け、重しとなった人型の物体を押しのける。


「どうして、」

 ソファから這い出て、息を整えながら呟いた。


「どうして、こうなったの…………」

 反撃の膝蹴りを食らってソファで突っ伏しているのは、つい先日私達のクラスに転校してきた生徒――


 神流崎眸、その人だった。

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