アッシュブレイバー

みない

もう一度立ち上がるためのモノローグ

わたしはすべてを失った。


未来も希望も、共に戦い抜いた仲間も失った。


この世界はまもなく、闇に呑まれ終焉を迎える。


わたしは、勇者はこの世界で負けた。ただそれだけだった。


なんでも出来るはずの勇者が一番弱かった。


力では戦士に劣り、その癒しは僧侶に劣る。ならばと魔法なら、魔法使いに及ばない。


勇者の力とは所詮その程度の物だ。


万能であるが故の弱さであり、その道のスペシャリストには敵わない。


勇者は所詮役割ロールであり、誰でもいい。


わたしはロトの一族でもなければ、トライフォースに選ばれたわけでもない。ましてや光に選ばれたり、遠い宇宙から光を与れるような人物でもない。


ただ、勇者の役割ロールを与えられたに過ぎない。


今となっては与えられた役割すら果たせなかった勇者の残滓でしかない。


いや、だからこそ、いまわたしは考えるのだ。


勇者の役割とは何なのかを。


力で戦士に劣り、瘉術で僧侶に劣り、魔法使いの劣化でしか無い役割を。


勇気を持つ者なのか? 人を導くのか? それとも本当にただのお飾りなのか?


いま言えるのは、わたしにそんな大それたものは持ち合わせていないということだ。


だからこそ、わたしは考えた。


勇者とは、英雄ヒーローとは何なのかを。


光に導かれた訳でも、運命に選ばれた訳でも無いわたしが何故勇者になったのかを。


その問いに、自問自答のその先に、ひとつの答えに辿り着いた。


勇者とは英雄ヒーロー勇気ある者にあらず。導く者にもあらず。




それは希望を繋ぐ者なり。



泥を啜り、鎧を砕かれ、剣を折られてなお立ち上がり、歩みを止めぬ者。


数多の人より背負わされし希望を守り、繋ぐこと。


それが勇者の役割。


たとえその希望が一縷の光であろうと、刹那の煌めきであろうと、その希望を糧に立ち上がり続けること。


それが勇者に選ばれたわたしの役割。


まだ、わたしのことを信じている誰かがいる。まだ、わたしのことを信じ続けている仲間がいる。


ならばわたしは再び立ち上がろう。


わたしが勇者であり続ける限り、誰かがわたしに希望を持ち続ける限り、わたしは何度でも立ち上がろう。



わたしが勇者であり続ける限り、希望を守り繋いでいこう。


決して希望は費やさせない。

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アッシュブレイバー みない @minaisan

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