『ミライ』


「ままー! はっぴーばーすでー!」


 今年で四歳になる私の最愛の息子……幸弥ゆきや。その元気いっぱいの声が響くと、無邪気な笑顔に胸が温かくなる。

 弥生さんみたいに優しくて人を支える人になって、幸せになって欲しいって思って決めた名前。


「ありがとう、あなたがいてくれるおかげで、ママはとってもしあわせだよ♡」


 優しく頬にキスをすると、ふにゃっと笑う。

 この子の存在そのものが、私の心を満たしてくれる。


「これ、僕たちからのプレゼントだよ」


 旦那が照れくさそうに、小さな箱を差し出してくれる。その表情に思わず笑ってしまう。


「ありがとうっ、大事にするね」


 箱を開けると、小さなネックレス。シンプルだけど、とても美しい。私は思わず、彼に抱きつく。


「素敵……ねぇ、似合ってるかな?」

「とっても……!」


 はにかみながら、私の頭を撫でてくれる。その言葉が、何よりも嬉しい。

 その姿に、「まま、きれー!」幸弥は目を輝かせて、私を見上げてくる。その純粋な瞳に、また胸が温かくなる。


 弥生さん、私、こうしてちゃんと幸せになれたよ。

 あの日、弥生さんに出会えたから、私、ここまで来れたよ。

 龍一、見てるかな? あなたの分も、私……幸せになるからね。


 込み上げてくる涙を堪えていると。


「まま! 早くケーキろうそく、ふーして!!」


 幸弥は待ちきれないと言わんばかりに、エプロンを引っ張る。私は思わず笑みがこぼれる。


「……ふふ、そうね」


 私は椅子に座って、ゆらめくケーキの蝋燭を前に目を瞑る。

 

 弥生さん……見てますか?

 

 私、弥生さんみたいに誰かを支えられる、そんな三十二歳になれていますか?

 

 未来を紡ぐ――あなたが私に教えてくれたこと。


 ゆっくり目を開け、輝く蝋燭を見つめる。そして、大きく息を吸い込んだ。

 

 

「いくよ……ふぅーっ!」

 

 

 燃える炎が静かに消える。

 

 

 見ていてね、弥生さん――私たちの未来を。



 

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ミライ 夢想執筆師 @VenusdeMilo

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