出口のない見えない白昼悪夢、でも純愛

 すごいの読んだな、というのが第一印象でした。
 表面的には『チコ』と『彼くん』のリアルな純愛の話のようです。
 ですが、その表面の下には何やらどす黒い泥のような、もがいてももがいても抜け出せない悪夢のような思考が走っています。このキャラクターの造形が陳腐にならないのはしっかりとした想像力と、それを表現する確かな文章表現があるからでしょう。とにかく読ませます。共感できようができまいが、とにかくそういうキャラクターなんだ、という説得力を持って読ませてきます。
 そんな二人のキャラクターが織りなすストーリーもまた救いのない、いつまでも覚めない悪夢のようです。チコの目に映る世界はひどく醜くて、臭くて、耐え難くて、彼女はいつも不安定です。そんな彼女の心の灯台たる彼くんもまた負けず劣らず不安定な人です。もうとにかく危なっかしいのです。その悪夢のようなストーリーが圧倒的、怒涛の文章で迫ってくる様が圧巻です。
 でも本当にすごいのはその先。
 読むにつれて、二人の純粋さのようなものが際立ってくるのです。
 そんな二人でしか歩いていけない世界、その先を創造したくなるのです。
 異才といってもいい、作者のオリジナリティーあふれる素晴らしい物語でした!

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