第41話


 家に帰って一弥と睦月の部屋に行った。


 だけど睦月はいなくて、一弥だけが部屋にいた。



「珍しいな、部屋まで来るの」



 ──話したいことあって。


 そう近くに座ってスマホの画面を見せる。



「転校の話か? ならそれは無理な相談だ」


「!」


「と言いたいところだが…」


「?」



 一弥は私の頭を大きな手のひらでなでて、私を膝の間に座らせる。


 一弥に寄りかかりながら、頭上を見上げれば一弥は笑った。



「お前が北校に残りたいって言ってきたら言おうと思ってたことがあるんだ」


「?」


「睦月の母校で過ごしたい…そうあいつに言ってみ?」


「!」


「ここに睦月がいれば反対するしかなかったが、今はタイミングがいい。親父も反対派だが、睦月を懐柔できれば親父もなんとか了承してくれるだろ」



 そっか。


 睦月のことをお父さんは信頼してるし、睦月が私に対して過保護なのも知ってる。


 だからその睦月が許したとなれば、お父さんも納得してくれるだろう…ということかな。



「でも睦月が心配して言ってるってのもわかってやれな?」



 こくりとうなずけば、一弥は私の体を抱きしめて頬を撫でる。



「こんなに可愛い妹を守りたいっていう兄心をわかってくれ。俺もだが、睦月はお前が可愛くて仕方ないんだ。何よりも大切で何よりも守りたい存在なんだ。俺らにとってこの世で一番愛おしい存在なんだよ。六華は」



 それは言い過ぎな気もする。


 でも普段の二人を見てると大切にされているのがわかる。


 だけど私もそれは一緒だ。



 ──私も二人のことが大好き。いつもありがとう。



 そうスマホに入力すると、一弥は笑いながら私をきつく抱きしめた。



「ああ、俺も大好きだ。なあ六華。俺が代わりに制裁をしたから、お前はこれ以上あのことに囚われずに前を向いて生きろ。堂々と胸を張ってまっすぐ道を進むんだ」


「!」


「もう二度とそんな気持ちを持つんじゃあない。復讐なんてくだらないことに命をかけるな」


「………」


「もしお前が復讐を実行していたら、俺はお前をこうして抱きしめることができなかったんだ。兄妹三人仲良く過ごすなんてことができない未来が来ていたんだぞ」


「!」


「だからな、もう二度とそんなことをしようと思うな。何かあったら俺らを頼れ。もう二度とあんなことは起こさせない。俺ら家族がお前を守る。なんとしてもな」



 兄の言葉にこくりとうなずき、私もぎゅっと一弥に抱き着いた。


 涙がほろりとこぼれ、それをごまかすためにぐりぐりとおでこを肩に押し付ける。



 大好きな兄たちと過ごしたい。


 大好きな友達と過ごしたい。


 大好きな悪魔と過ごしたい。


 いつまでも、いつまでも、大好きな人たちと一緒に。



 もう二度と復讐をしようなんて思わない。


 そう心に誓いながら、一弥の腕に抱かれていた。

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