無能烙印押された貧乏準男爵家三男は、『握手スキル』で成り上がる!~外れスキル?握手スキルこそ、最強のスキルなんです!

飼猫 タマ

第1話 プロローグ

 

 まずは、自己紹介。

 俺は、貧乏準男爵家の三男トト・カスタネット。父はオドル・カスタネット。それから母親が違う兄2人と、妹が1人居る。


 実の母は、準男爵家に奉公していた元メイドで、父、オドル・カスタネットがお手付きして、俺がオギャ~と、生まれたらしい。


 そんな母は、俺が2歳の時に、本妻の虐めに耐えられなくなり蒸発したとの事。生死は不明。有る日、何も言わずに家を出て行ってしまった。


 で、13歳に成長した俺は、現在、継母に嫌がらせをされてる所。


 旦那を寝取った、にっくき女の子供だから。まあ、そうなるよね。


「井戸を掘りなさい!」


 だっだっ広い何もない庭。上位貴族の庭のように、季節の花々が咲き誇る手入れの行き届いた庭なんかじゃない。本当に、厩舎以外、何もない庭。

 庭師の仕事と言えば、貴族としては粗末な屋敷(なんの装飾もない、広いだけの二階建ての家)の裏にある、家主のお腹を満たすだけの、自家農園の野菜を育てる事だったりする。


 そんな、何もない、正面側のだっだっ広い庭を指さし、血の繋がりがない継母が、眉間に皺を寄せ、俺に命令しているのだ。


 井戸を掘るのが、どんだけ大変だと思ってるのだ? まあ、言われたからスコップ持って掘るのだけど。


 実をいうと、俺は、継母に命令されて、過去に1つ井戸を掘ってたりする。

 深さにして30メートル。結局、水は出てこなかったけど。


 ある意味、井戸掘りのプロ。穴が深くなってくると、やぐらを組んでバケツに土を入れ、一々、穴から出ては、土が入ったバケツを引き上げるのだ。


 ん?非効率?非効率でも、何でもいいんだよ。だって、出来ない事を命令されてるんだしね。

 そもそも、井戸を掘っても水が出ない場所だと1回掘ってる時点で分かってる。

 何せ、1個目の井戸から、5メートルくらいしか離れてない場所を掘ってる訳だし。


 俺がやらされてるのは、ただの嫌がらせ。

 1つ目の井戸だって、試行錯誤して、掘るのに3年間もかかったんだから。普通、子供1人で井戸を掘らないし。


「本当に嫌だ。成人したら、絶対に家から出てってやる!」


 これが、今の俺の目標。

 1人で、黙々と作業してるので、独り言も多くなる。


 ーーー


 俺は、現在13歳。そして明日は、教会でスキルを授かる日。明日という日を、俺は、どれだけ期待したか。


 実の母親は平民だが、父親は曲がりなりにも貴族なのだ。現に貴族特有の戦争に役立つ攻撃的なスキルを持ってる。長男のカークも剣術スキル。次男のニコルは弓スキル。


 俺も、この井戸掘りという、全く生産性の無いお手伝い(虐め)から抜け出す為に、攻撃スキルを得たいのだ。


 攻撃スキルさえ持てれば、冒険者になって、ガンガン稼げるし。実際に、貴族を継げない三男、四男で、冒険者になって成功した者達がたくさん居るのである。


 そして、次の日。人生一発逆転が狙える運命の日がやってきた。

 神父が、その年に13歳になった少年少女を教会に集め、女神様から賜るスキルを神託として教えてくれる日。


 俺は、領主の息子として、一番最後に神父に呼ばれ、女神から授かるスキルを教えて貰った。


「貴方が、女神様から与えられたスキルは、『握手』です」


 神父様は、心穏やかに、澄んだ表情をして俺に告げる。


「握手?」


 俺は、思わず聞き返してしまう。

 だって、『握手』という名のスキルなど、今まで聞いた事なかったから。


 貴族なら、『剣術』やら『槍術』。『身体強化』とか、『攻撃力2倍』など。

 平民なら、『料理』とか、『稲刈り』とか、『肩叩き』なんてのもあるが、まさかの『握手』?一体、どんなスキルなのか?ただ握手が上手くなるだけ?俺は、全く検討もつかない。


 領主として、一緒に教会に来ていた父親のオドル・カスタネットなんて、頭を抱えてるし。貴族である自分の息子が、女神から攻撃スキルを与えられなかったのが、とても恥ずかしかったのであろう。


 教会に来てた、領民達も、微妙な空気のせいで、拍手する事もできないでいるし。(普通は、領主の息子が、攻撃的なスキルを授かり、領民達が盛大に拍手して、領主も何か一言、祝辞を言う場面)


 結局、なんとも言えない空気の中、父親と2人きりで馬車に移動し、屋敷に帰り、庭に降り立つと、


「トト。『握手』スキルとやらを、私に使ってみせよ!」


 馬車の中も、ずっと険しい顔して無言だった父親のオドル・カスタネットが、俺に命令してきた。


 もしかしたら、『握手』スキルというスキルが、誰も知らない未知のスキルなので、オドルは、ワンチャン、凄いスキルかもしれないと思ったのかもしれない。


 しかし、『握手』スキルを使って見せろって?使い方が分かんないんだけど?

 ただ、人と握手をすればいいのか?まあ、『肩叩き』スキルなんかでも、ただ、肩叩きすればスキルが発動するから、多分、人と握手すれば『握手』スキルが発動するかもと思い、俺は、父オドルの前で右手を差し出してみた。


 オドルも、俺が差し出した右手を、ジッと見てから、ガッシリと俺の右手を握ってきた。


 すると、俺の目の前に半透明の板のような物が出てきて、父親の名前が表示されたのだ。


「オドル・カスタネット?」


「ん?何故、私の名前を言う?」


 父親のオドルは、俺と握手したまま、問いただしてきた。


「ええと……何か、目の前に透明な板のような物が出て来まして、そこに父さんの名前が書いてあるのです……」


「それだけか?」


「ハイ……」


 オドルが握る俺の右手が、ミシミシ鳴っている。怒ってるのか?痛い……


「やはり、平民の子は、平民という事か」


 オドルは、握手してた手をスッと、離すと、もう、俺には興味が無くなったのか、そのまま無言で屋敷へと入っていってしまった。


 まあ、分かるよ。貴族である自分の息子が攻撃スキル授からなくて、よく分かんない『握手』スキルを手に入れちゃったんだもん。

 しかも、そのよく分からないスキルが、握手した人の名前が分かるだけのスキルなんて。


 オドル以上に、俺の方がショックを受けてるっての!

 何が、貴族の息子だよ!俺にだって、一発逆転のワンチャンあるかもと思ってたのに!


 攻撃スキルが得られなかった以上、もう冒険者ギルドに入って、一発当てるという計画はパー。

 攻撃スキルを持ってない人間が、冒険者になるなんて無防だし。

 まあ、薬草摘みとか、物探しクエスト、それからお掃除クエストとかなら出来るかもしれないけど、そんなんじゃ、全く金が稼げないし。

 俺も一応、貴族の息子なので、自分の領地でお掃除クエストなんかしてたら、とても体裁悪いしね……


 完全に詰んだ……


 攻撃スキルを得られなかった事で、より一層、継母と、それから長男からの嫌がらせが多くなり、毎日、井戸掘りばかりをやってる日々が続く中。俺に、突然、転機が訪れる。


 それは、本当に突然やって来たのだ。


 俺も、一応、貴族の家の息子なので、人と握手する機会は、意外とあったりする。


 その日は、カスタネット家の屋敷に、御用聞きの商人の荷馬車がやってきていたのだ。


 俺は、相変わらず、井戸掘りをしてたら、顔見知りの御者が、井戸を覗いて声を掛けてきた。


「また、井戸掘りですかい?」


「ああ。継母の嫌がらせでな!」


 俺は、井戸の中から御者に答える。嘘言っても仕方が無いし。俺が、平民の女から生まれた子というのは、耳が聡い者なら知ってる事だしね。


「でも、トト様も、曲がりなりにも貴族様の血を引いてらっしゃるので、良いスキルを得られたのでは?」


 俺が、今年13歳だと知ってる御者が質問してくる。

 まあ、良いスキルを得たのなら、成人になる15歳になって家を出れれば、継母からの嫌がらせから抜け出せるでしょ! とでも、言いたいのだろう。


「残念ながら、俺は攻撃スキルを得られなかったんだよ! まさかの『握手』とかいう、握手したら、その人の名前が分かるスキルしか、得られなかったの!」


「なんと、それは商人にしたら、とても良いスキルでやすね! 商人は客の名前を覚えるのも仕事ですから、握手すれば人の名前が分かるなんて、夢のようなスキルですよ!」


「商人ならな……」


 トトは、冒険者になりたかったのだ。そもそも、商人になんかなりたいとも思った事が無いのである。


「ちょっと、私と握手してみません?そして、私の名前を当てて見て下さいよ!」


 御者は、興味を持ったのか、グイグイ来る。

 確かに、初めて聞く未知なスキルは気になるものだ。

 御者的には、俺って、貴族なのに喋りやすい部類の人間なのだろう。貴族の子息なのに、泥だらけになって、穴掘りしてるぐらいだし。


「じゃあ、握手するか?」


 俺は喋りながら、井戸から出てくる。


「ハイ! 勿論、トト様は、私の名前なんか知りやせんよね?」


 御者は、確認なのか、一応、聞いてくる。


「ああ。勿論、知らん!」


 俺は、御用聞きの商人が来る度に、主の商人が屋敷の中で商談してる最中、庭で手持ち無沙汰にしてる、この御者と世間話をするのが習慣になっていた。

 だかしかし、ただの御者自体に、それほど興味もないので、名前など聞いてなかったのである。


「ですよね!」


 御者は、嬉しそうに俺に右手を差し出してくる。


 でもって、御者の右手を握ると、


【名前: ソオドール】


 いつものように、御者の名前が書かれた、半透明の板が出てきた。


 そして、続けざまに、頭の中で、ティッティテ~ン!と、音が鳴る。


【『握手』スキルが、規定の50回握手する事により、Lv.2になりました。それにより、名前の他に、職業欄も開示されました。

 次のレベルアップには、握手100回が必要になります。 因みに、次に開示される情報は、年齢になります!】


 まさかのレベルアップ。スキルの中には、たまにレベルアップする物もあると聞くが、まさか、自分が待つ握手スキルが、レベルアップするものだとは思わなかった。


 確かに、目の前にある半透明の板を見てみると、


【名前: セオドール、職業: 御者】


 と、新しく、セオドールの職業欄が表示されていた。

 これって、もしかして、凄い事じゃね……

 この握手スキルを成長させていったら、レアスキルである『鑑定』スキルと、同等の情報が、握手するだけで、分かるようになりそうだし……


「ちょっと、トト様?どうしやした?」


 暫く、握手したまま、妄想して固まっていたので、御者が心配して話し掛けてくる。


「ああ。え~と……セオドール、何でもないよ!」


「ウォォォーー! 凄いですね! 本当に、私の名前が分かるのですかい!」


 セオドールは、思いのほか驚いてくれている。


 というか、セオドール以上に、今の俺の方が、心の中で、ドキドキ興奮してるし。


 『握手』スキルは外れスキルだと思ってたけど、どうやら俺は、とんでもないスキルをゲットしてたようだ。


 ---


 ここまで読んで頂きありがとうございます。

 80話ぐらいまで1日3話ぐらい、土日多めに投稿するつもりなので、引き続き読んでくれると嬉しいです!

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