第8話

 その頃、魔道機兵の操縦室なかでは、激しい揺れに耐えながらイリアが、管制球に重力魔法を注いでいた。


反重力呪アングラッボをかけながら…… 機兵ユーを走らせるのは手間ね!」


 それ自体が伸縮して魔動機兵を駆動させる如意棒アクチュエーターはテンセグリティ構造で機体を支え、それを取り囲む様に装甲が組まれている。爆発的かつ繊細に如意をコントロールするのは時磁力石ぢぢりいしの管制球に注ぎ込む彼女の重力魔法だ。


 管制球を光らせてタケシの声が、骨伝導で耳に響く。


「そりゃ負担が大きいだろ、操縦はコッチでしようか」


「ダメだ! ラグがでる、転んだら終いだ。距離は!」


 魔動機兵は青い残光を曳きながら、土伏竜との距離を詰め、周回軌道を駆ける。その中心で、ウロコに覆われた竜は魔動機兵の飛び道具を警戒し、慎重に武僧を背中へと隠しながら、左へ、左へと回転している。


 機会か間合いを窺っているものと、タケシには見えた。


「三五〇。敵挙動に変化なし、落ち着いていやがる。ありゃ歴戦の使役魔獣だぜ」


 魔動機兵の双眼が、横目に捉えている土伏竜の様子を、網膜に映しながら、同じ方向に横目を向けいるイリアだが、魔動機兵は決して楽な連れ物ではない。鉄の棺桶バスタブをシェイクするような振動と遠心力に歯を食い縛り、耐えながら、管制球に問いかける。



「三〇〇まで詰めたら!」


「一気に走る」


 軽量な竜とは言え、最大速度までの加速には一〇〇mかかる。その距離を潰す。


「そのあとは!」


「跳躍で仕掛けるぜ。直線に入ったら操縦は任せろ、弾道計算が要る」


「上から…… 斬りつけるのか。りょ! 頃合で渡す!」





 









 一方、闘技場の中央では、緋色の武僧が土伏竜ソイルドラゴンの後ろから顔を出して静かに呼びかけた。


「周囲をまわりながら間合いを詰めているな。──土龍、討って出るか」


 信じがたいスピードで黒い巨人は、周回を続けている。なみの疾走系魔獣ならすでに息を切らしていようものだが……。



 土伏竜も、共に闘技場の中心で、身体の向きを変えているだけの状況に飽いたのか、体躯に似合わぬ甲高い声でうなずくように、みじかく鳴き、


「よし、タイミングは任す。まずは奴らと同じ軌道に乗れ、加速の手間が省ける。肩にぶちかましてやれ!」


 武僧は手綱を切った。


 すると待ちかねていたように土龍は、後肢あとあしを蹴って四つ脚で飛ぶように駆け出し、漆黒の大甲冑とは逆方向、左に向けて駆けていく。







 うねりながら、側面を見せてその竜は、斜め軌道を闘技場の砂の上に描いて魔動機兵へと迫る。


 操縦席でイリアが、吸い付くような管制球クリスタルに掴まりながら、視線を移しつつ、


「タケシ! 向こうから来た! ──いいか、ユーハブコントロール!」


「まかせろ、アイハブ、コントロール!」


 機体制御を移管し、まさに人機一体、漆黒の鋼鉄はウソのような軽さで周回軌道を変え、そして一直線、土伏竜と巨人機は向かい合ったまま、互いが踏み切り台であるように加速し、管制球タケシは肩の長剣を引き抜き、天を駆け上がるように漆黒の巨躯で跳びあがる。


 太陽を背に、魔動機兵の影が剣を構え、土伏竜の見上げている頭部に、急降下斬撃をする。


 ──だが彼方で、武僧が叫び、


 土伏竜は、振り向くようにわずかに顔をそむけた紙一重で、鋭い長剣をかわし、そのまま対向列車のような勢いで巨人機を掠めて体当たりしながら通り過ぎていく。


 受けた魔動機兵は、それでも着地の最中であったから、土龍の勢いにひねりを入れた六トンのドリルとして床のコンクリートをブチ破り破片と砂を巻き散らして闘技場の床の上を、旋風つむじのように土煙と火花を巻きながらバウンドし、横回転して、落ちたその先でもまだ仰向けのまましばらく滑りながら仰向けに半回転し、軋みをあげてようやく止まった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る