第7話
西壁の玉殿では、仮面をつけた若王が玉座から身を乗り出し、砂塵に霞む闘場を見据えていた。
「あれはなにか、使役獣ではないのか。──なかに女が乗り込みおったぞ」側付きの老魔道士に問いを発した。
そう若王に振り返られた老魔道士も、はじめは困惑したように頭をかきながら、「いやはや、私めも初めて目にいたしましたもので……」と曖昧に応じたものの、次の瞬間、何かを思い出したように顔を上げた。
「──そう言えば。たしか夏の国に、報告書がありましたな。確か、〝
「まどうきへい?」
「女魔道士と組んだ転生者がエド公の資金援助で生み出した、魔道具じかけの巨大な甲冑兵とありました。ミヨイテの海で、そしてパルミスの高原で、
「パルミスの、あの蜂起でか。 あの巨人がか……?」
たしかにそう見れば、闘技場を行く漆黒の巨人の装甲には、いたる所が凹んでいる。特に左腕前部の角盾には縦にも横にも傷がはしり、腕ごと魔獣に噛ませた様に縁を曲げてねじれている。
「なんともこれは、面白いな。しかしあの女、騎士かと思うたが、魔道具仕掛けとなると……」
すると、下男が
若王は、それを手にして、女の生まれが北バルディア、凍れる山脈とある文字の横まで来ると、
「い、イリア……、ミ…」
仮面の下で目をむいて玉座から腰を浮かしたが、
「いかがなされましたか」
老魔道士が不思議そうに覗き込む顔に、
「いや……」と、咳払いをし、「ただ、面白いと思っただけだ」と目を逸らした。
「しかし、あのイリアミリアスなる女、重力魔道士とあるぞ」
若王は、老魔道士に資料を突きつけ、「おなじ重力魔法を使うそちが、知らぬということはあるまい」
仮面の下、冷静をつくろう目で睨みつけるように言った。
老魔道士は、肩をすくめながらも、
「いえ、私が知るのは、北バルディアの凍れる山脈に彼らが閉じこもるよりも遥か以前の話でございます。が…… 念のため、」
と、杖の先の透明な球結晶に術式をほどこして、西壁の玉殿を覆う結界を強化する薄く蒼い光の波紋を広げていった。
「防壁を強化しておきました。──ミリアスといえば、かつて都市をも消した白羽の一族…… 穢れた名にございますれば」
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