第5話
──貴賓席で笑いが起こる、その少し前のこと。
闘技場の上では、南門から入堂した夏の国の
漆黒の巨人機の脚部に手を触れたイリアが、小声で呼びかける。
「──タケシ、聞こえるか」
操縦席に搭載された
「──ああ。感度良好だよ」
その声は遠いのに澄んでいて、イリアの耳骨に直接、骨伝導で伝わっている。巨人機のフレームを構成する
イリアは、指先で巨人機の脚部に触れながら、視線を前方に戻す。夏の国の
一方で魔動機兵は、頭部の青く輝く双眼を西の玉殿に向けて、玉座にかける若王を拡大した。
「ねえイリア、あそこに見えるのが、新しい王様かい」
気怠そうな若王は、背格好と人種が、タケシの昔によく似ていた。
「たしかにおれとおなじ、
懐かしい気持ちが反映したのか、管制球と共に双眼が青白く振動した。
だがイリアは、「あまりジロジロ見るな」と彼をたしなめた。
「冬至の今日は、午前と午後の二回。そして次の夏至は三回。勝ち抜けば、あの玉殿に優勝者として上がれるんだ。──今は目の前の相手に集中しろ」
イリアが三白眼で言うと、魔動機兵は頭部を戻して正面を向き、その双眼が青く明滅するたびに、管制球内でタケシが動作確認を行っているのが伝わってくる。
「だって。モニターも久しぶりなんだもん。キョロキョロもするよ」
機兵は厚手のミトンのような手指を動かし、イリアは、その手に触れ、タケシに尋ねた。
「それで、作戦のほうは立ったのか」
管制球が再び光を放ち、耳にタケシの声が響く。
「うん。
その言葉にイリアは眉をひそめた。
「バカ。今度のシッポは硬いウロコだぞ」
彼女の即座な反論に、向こうの世界で微笑んでいるようにタケシは一拍おくれて、答える。
「別の方法だよ。君の魔法も、あの時より格段に進歩した」
すると、西壁の玉殿の下で半裸の武装貴人が、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます