第2話

 彼らの向かい南門より入堂せし夏の国の武僧モンクは、剃髪した僧形の男とで、緋色の武術着に精強な体躯を包み、手甲と脚絆を当てている。


 彼の握る手綱の先には、連れ物の土伏竜ソイルドラゴンがあり、その横をうねるようにウロコ表皮を鳴らしながら四つ脚で歩む。



 その体高は北門に見える巨人機の半分、長身な武僧とは肩が並ぶほどの高さだが、頭部の鋭い吻部クチバシから長大な尻尾の先まで含め全長は一〇mを超える。その長い尾を左右に振り、身をくねらせて進む姿はさながらしなやかな岩山である。


 背面と四肢を覆うウロコの帷子かたびらは軽量にして硬質。戦さ場では、降り注ぐ矢玉や投石あるいは火油から完全武装の兵員を腹下に隠して共に敵陣を突破し、長い尾の鞭のような一撃で障害物や敵横隊を薙ぎ払い突き崩し、立ち塞がる使役魔獣には、喰らいついたクチバシに全体重をかけて横回転デスロールし、その四肢を食い千切る。











 一方、闘技場の東壁にある貴賓席からは、同盟国の諸公や大臣らが、遠眼鏡を手に身を乗り出して、



「あの鋼鉄の巨人、竜のクチバシでは通りそうもないが……」


「では北門の娘に賭けるか?」


 口々に、見識や経験を披露し見立てを語り合い、今年の第一回戦の組み合わせにえもいわれぬ唸り声をあげ、身悶えし、金貨を入れた巾着を、北門を意味する金杯の中、いくつ投げ込むかで悩んでいる。


 だが、小盗竜ミクロラプトルの羽根扇で口を覆って貴婦人が、


「──いかが思われましょう、ゴード卿」と、古傷を手や顔に刻んだ武人風体をした貴族に声をひそめ、尋ねると、


「さて。それがしも初めて目にする巨人でして……」そう恐縮しながらも、目を細め、


「しかし、掛けるなら、南門の銀杯。土伏竜のウロコで御座ござる」


 囁くように、その扇子の耳元で答えた。


 すると、その貴婦人が不人気の銀杯を抱えた下人を呼び、


 その様子を見て貴族たちは、うなずき合い、金杯から、南門を意味する銀杯に巾着を慌ただしく回収していくが、「されど……」と、四聖教会の大司教がつぶやいて、摘んだ皮袋を手のひらでふたつ、ためらうように弄びながら、眼鏡の下で目をしばたたかせ、


「ワシも…… いや、皆んなもそうじゃろうが、千人隊長としての講釈を聞かせてもらいたくてのぅ。──駄目かね? ゴード卿」


 大司教は上目遣いをした。





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