番外編:城山教授への疑問

――私のゼミの教授は本当にかっこいい。

だけど、今までの教授はあんな感じではなくて、もっとこう。

優雅というか、余裕があって、大人で。

上からフッと笑って見下ろしているような、そんな人だったのに。


これはどういう事だろうか。 


「ねぇねぇ、裕次郎」

「あん?」

「なんかさ、城山せんせってあんな感じだったっけ?」

「ん? 先生どこ?」

「あそこにいるよ」


京が指を差して、裕次郎がその視線の先を追う。

三人で教員向け駐車場に向かって歩いていると、先生を発見したところだ。

ついでに私の親友美亜もなぜか教授と一緒にいる。


なぜ教員向け駐車場に向かっているかというと、そこにタクシーがよく止まっているからだ。

今から三人で飲みに行こうという話なのだ。リッチマンの京が電車などに乗りたくないなどとわがままを言うから、大学生なのにタクシーを使おうとしているというわけだ。

美亜は誘ったけどどうも予定があるらしく、無理って言っていたけど、予定って先生と?


「美亜。待ってよ」

「走ってってば。私、今はそんなに足速くないんだし追いつけるよ」

「むりむり。いつから走ってないと思ってんの」


先生は軽快に走る美亜に、少し小走りになりながら追いかけている。

 

美亜?

今、美亜って呼んでた?

裕次郎はアホ面でぽかんと口を開いているけど、京は澄ました顔で二人の様子を見ていた。


「もうー軟弱だなぁ。ごめんごめん、一緒に歩こっか」

「うん。そうして」


美亜が先生の手を引いて、駐車場に向かっている。

な、なにこの二人。

もしかして付き合ってんの?

いや、明らかに付き合ってるよね。


「そういや吉村がさ、今日家行っていいかだって」

「えー、また吉村くんといつ会ってたの」

「さっきさっき。偶然コンビニで会っちゃってさ」

「ふぅん。美亜ってホントに吉村くんと縁濃いよね」

「そう言うなら千里もじゃん」

 

千里?

確かに城山先生の下の名前は、確かに千里だったはずだけど。

美亜は先生の背中をなだめるように撫でながら、二人で楽しそうに歩いて行く。


「美亜、今日は二人だけでいたいよ」

「ふふ、うんいいよ。じゃあ、吉村は明日にしてもらおう。家帰って何する?」

「とりあえずいちゃいちゃ」

「ぶふっ。千里ってほんと可愛い性格してるよねー」


先生の外車に二人で乗り込むと、二人は私たちに気付かないまま、普通に帰って行った。


「ええええええ! 美亜ちゃん! まさかのおじさんキラー? いやまぁ先生見た目は若いけどさぁ。でもねぇだろ。何歳差? って、え? 先生って離婚したんだっけ?」

「あ、離婚は噂で聞いたね。ていうか、薬指から指輪無くなってただけだけど。あの二人付き合ってたんだ。えー、てか先生人格違いすぎない?」

 

裕次郎と二人でぎゃあぎゃあ言いながら話すと、黙っていた京が私たちの前を歩く。


「俺は知ってたよ。あの二人、ずっと変だったし。ていうか、授業中に裕次郎が美亜の髪とか触る度に、先生が裕次郎に問題当ててくるじゃん」


新事実にぽかんとなる私たち。


「気付いてなかったの? 鈍いね」


京が楽しそうに笑って、イライラした私たち二人は京に飛びついてやった。


「重い重い重い、やめてって。ほら、飲みに行って今日見た事は忘れてあげよ。美亜の幸せのために」


蒸し暑い風が駐車場に流れ込む。

「初恋はまだ」と言った時の美亜の戸惑ったような、困ったような顔を思い出した。

そして、城山先生が初めて結婚指輪を付けてこなかった日。

「先生今日指輪忘れたんですか?」と興味本位で聞いた事を思い出した。

何も言わずに笑った先生の悲しげな表情が目に浮かんだ。


目の前を横切った、美亜と先生の楽しそうな顔が頭に蘇って、幸せな気持ちになった。


……それにしても、教授ってあんなキャラだったっけな。



おわり


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る