鴻巣キコニア伝

鬼伯 (kihaku)

第1話 序曲

――The Legend of kounosu Ciconia――


 鴻巣キコニア伝;主な登場人物

・オ キ… 笠原ノ小杵(おき)。武蔵の国のミヤツコ(造)=貴布根(きぶね)の息子。

・カワビ… 革備(かわび)。オキの屋敷の作頭(さくがしら)。

・オ ミ… 笠原ノ使主(おみ)。仮のミヤツコ。

・マロイ… 円衣(まろい)。オミの娘。


 古墳時代の話である。日本書紀は、安閑(あんかん)天皇の時代に「笠原ノ使主(おみ)と同族の笠原ノ小杵(おき)が武蔵の国の造(みやつこ)の地位をめぐって争った」と記している。武蔵の国はいまの埼玉と東京それに神奈川の一部をふくめた広大な地域だった。ミヤツコは実質的な地方長官で、その地位をめぐってオミとオキとが争ったというのである。

 オミとオキ、2人の屋敷はいまの埼玉県鴻巣市あたりにあったとされる。そこが当時の武蔵の国の中心地だったのであろう。その地は一望千里に広がり荒ぶる大川がとうとうと流れ、田畑を肥沃にし豊かな実りをもたらしていていた。緑はしたたり花は咲き、蝶は蜜を吸って舞いおどり、平地林では小動物があそび、大空には白地に黒味をまじえた大鳥がゆるらかに飛翔していた。

 昔のまたその昔、海をへだてた遠い国から漂流してきた異邦人が、この大鳥のことを「キコニア」と呼んでいたので、異邦人の寂しさを慰めるために土地の人々も同じくキコニアと呼ぶようになった。キコニアは吉事をもたらす鳥として知られ、特に赤ん坊を運んできて世の中の繁栄をもたらす幸運の鳥、幸(こう)の鳥として崇められた。ところが、このところその幸の鳥のキコニアが見えないので、人々は「やっぱりアレが災いしているのだ」と噂した。アレとはオミとオキとの争いのことである。

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