第5話 報酬の刻

 調は何だか体の調子がいつもよりも良い気がした。体が羽のように軽い。


「調子良いぜ。体が軽くていくらでも走れそうだ」

(お前は気づいていなかったが、魔力で体全体に強化を施していた。それが身体強化という魔法だ)


魔法という言葉に調は耳をピクピクさせ、目を見開いた。


「魔法……使えるのか。俺が、この俺が」

(初歩中の初歩だがな)


ザウスによる脳内コメントは調の意識には残らなかった。それ程に魔法という言葉に取り憑かれたのだ。


「ふ、ふふ、ふふふはははっ。魔法……魔の法。この俺が魔法を使ったのか。嬉しさの余りに空も飛べそうになって来たぜ」


(飛行魔法は使えんぞ。あれには魔力量と魔力操作力が足りない。いずれは出来るかもしれんがな)


「飛行……魔法、だと? 人の夢だぞ。それがいつの日か叶うというのか。では誰よりも先にこの我が……」

(我……何キャラだ? これがこの世界の厨二病という精神病か。哀れな小僧に祝福を)


調の脳内に顔文字によるイメージが送られてきた。


ಠ_ಠ


この顔である。


それを気にせずゴブリン退治へと向かうと

遠くの方で悲鳴が聞こえた。


かなりの速さで走るとそこにはゴブリンが人を襲っていた。


「んー、10体か。今助けます!!」


身体強化と魔力纏いでゴブリンを殴打し殺す。

倒されたゴブリンは光となって消え去った。


身を構えていた女性は緊張の糸が切れたのかその場に座り込む。


「大丈夫ですか? 怪我は?」


調は女性の顔を覗く。

どうやら余裕は無さそうで落ち着くまで待つ事にした。女性が落ち着き、何とか会話が出来るまでになった。


「助けてくださりありがとう御座います。私の名前は『前坂実里まえさかみのり』です」


お辞儀をして丁寧に挨拶をする実里。

その手はまだ少し震えているようだった。


「俺は『明道調』。無事で何よりですよ。間に合って良かった」


「調さんと言うんですね。本当に助けていただきありがとうございました。お礼と言っては何ですが、私のお家でご飯を食べてくださいませんか?」


美人からのお誘いを断る調ではない。

ご相伴に預かることにした。


「うちはここから歩いて15分の所にあります。あの……手を……握ってくださいませんか?」


美人からの申し出に断る調ではない。


「良いですよ」

過去最高にダンディな良い声を意識した渾身のイケボ。


(ダンディな19歳は路線間違ってるだろ。お前はまだ小僧だろうがよ)


調は脳内コメントを完全にシャットアウトした。


手を繋ぐと調はhshsし始め、次第に緊張と恥ずかしさに押されていく。


時間を忘れるほどの倖時間ハッピータイム

その時間が終わりを告げた。


「着きました。ここが私のお家です。狭いですけど……上がってください」


小さなアパートの一室。

外観は綺麗で部屋に入ると良い匂いが漂っている。


一気に頭の中がピンク色に染まる。


「おじゃ、おじゃ、お邪魔するしま、します」


動揺と興奮に脳が焼かれている。

(哀れな小僧だ。所詮は童t……シャットダウン再開……)


「どうぞゆっくりしてくださいね。今お茶出しますから」


「おかま、いなく」

(オカマは居ないだろうよ)


「冷たいお茶です。寛いでてくださいね」


そういうと実里はキッチンへと向かった。

トントントンという包丁の音、次第に美味しそうな匂いが鼻を刺激する。


時間が経過し、実里が料理を持ってきた。


「お待たせしました。煮込みハンバーグです。沢山食べてくださいね」


めちゃくちゃ美味しそうなハンバーグを前にして固まる調。


「なんという神の如き料理だ。あなたは………天使か」

(何を訳のわからんことを言っておるのだ。神は私だ)


「やだ天使だなんて……調さんは面白い方ですね」


「あは、あははは。う、美味いですよ実里さん。最高です」


調は完全に有頂天だった。


「はははは。お上手ですね。彼氏にも好評なんですよ?」


「それはそうですよね。これだけ美味かったら彼氏さんも………彼、かかか、彼氏!?」


「ありがとうございます♪」


調は思った。

さっき手を繋いだよなと。

料理も作って貰ったよなと。


(哀れな小僧だ。女というのは無意識に男を傷つける生き物だ。覚えておけ)


短き恋の終わりが折角のハンバーグの味を掻き消し、調は自宅へと帰るのだった。


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調は恋愛レベルが上がった。

スキル『恋愛耐性』を覚えた。


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「アナウンスやめろぉおおおお!!!」


その叫びは夜の空へと消えていったのだった。


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