第19話

「うっ、うっ……」


隣から呻き声が聴こえ見れば、サトシが鼻水をだらだら流しながら泣いていた。


「お前、泣くなよ!」


驚いて声を掛けると、「だって、本物がいるんだぜ」と、サトシは情けない声を出した。






「かっこいいよ、本当にかっこいいよ……」


サトシは鼻をズビズビ啜りながら、泣き続けている。


そんなサトシを見ていたら、俺も胸に熱いものが込み上げて来た。


毎日聴いているCDの人が、今目の前で俺達のために歌ってくれている。


ライブをしてくれてほんとうにありがとう!って、叫びたかった。






「リキ~!」


しばらく経った頃、誰かが大声で叫んだ。


そして辺りは“リキ”コールでいっぱいになったから、きっとボーカルの人の名前なんだろうと、なんとなく思った。


ボーカルの人は怒涛のような声援に答えることもなく、ただ必死に歌ってた。


地面にしっかり足をつけ、ひたすらにマイクに向かって……。

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