第3話

「図書館!」


 舞子からのメールを見て早苗はソファから立ち上がった。

 どうしてもっと早く気がつかなかったんだろう。

 しかし早苗は図書館を利用した事がなかった。

 当然貸出カードもない。

 早苗は急いで下の階へ降りると、母に聞いた。


「お母さん、図書館のカードもってる?」

「もってるけど、なんで?」

「貸してほしいの」

「何を借りるの?」

「眠れる森の美女のCDとDVD!」


 さっそく母親のIDで図書館のHPにログインする。

 検索したらあっさりあった。

 それを予約しておく。入ったらメールが来るシステムらしい。

 早苗はまた舞子にメールを打った。


「舞子は私の神様だよ! ありがとう!!」


 ハートの絵文字つきで送った。


「神様……か。やっぱり憎めないなあ。かなわない」


 舞子は微笑すると返信した。


「来週までにちゃんと踊りをマスターしてね。応援してる」


 数日で図書館からメールが届いた。

 CD1セットとDVD三枚だ。

 学校が終わると早苗は少しドキドキしながらそれを取りに行った。家について、すぐに居間のDVDデッキにDVDを押しこむ。    

 早く観たい。

 私はこの「眠りの森の美女」のどこを踊っているんだろう。

 そんな気持ちが先走る。

 テレビは鮮明に舞台を映し出していた。

 (先生は序章の序盤だって言ってた。だから割と早くに私の役はでてくるはず)

 そう思ってテレビにくぎ付けになる。

 DVDの解説書を見た。 序章の解説にはこう書いてあった。


「フロレスタン王国に生まれたオーロラ姫の誕生パーティーが開かれている。

 国王に呼ばれた妖精たちは、それぞれ「優しさ」「活発」「鷹揚」「呑気」「激しさ」そして「優雅さ」をオーロラ姫に送る。パーティーに招待されなかった悪の妖精「カラボス」は怒り、パーティーに乗り込んで

 「オーロラ姫は指に毒針が刺さって死ぬだろう」

 と呪うが、善の妖精、リラの精が

「眠るだけです。賢い王子が姫を目覚めさせるでしょう」

 と予言を残す」


 早苗は素早くそれを読むと、またテレビを見た。なるほど、この前の練習の時に先生が振りつけたのと、同じような振付だった。


「優しさ」は優しく手でなでているような振付、

「激しさ」は言葉の通り、勢いのある踊りだった。

 早苗はソロでも一番最後だ。

 その踊りが始まる。


 (私……リラの精の踊りだったんだ)


 振付も似ていた。

 玉枝先生が、何度も「優雅に」と早苗に言った事を思い出した。


 (そうだ、私はオーロラ姫に優雅さを与えるリラの精なんだ。だから優雅に踊るのね)


 テレビの中ではリラの精が、手を遠くに伸ばし、足は高くあげ、それでも動作はゆっくりと踊っている。


 (六人で踊るコーダはどうなるんだろう)


 早苗は胸がドキドキしてくる。緊張、という言葉が一番しっくりくる。 やはり初めは二人出て、次に三人、最後に早苗と同じように中央にリラの精がたった。

 (!)

 早苗は息を飲んだ。

 初めて見る技だった。

 軸足一本でポアント(つま先立ち)しながらもう片方を高く上げ、その足を回して回転し、また高く上げる。

 それを八回繰り返す。

 急いで解説書を見る。


「イタリアン・フェッテっていうんだ……」


 そこで早苗はDVDをとめた。

 少し自分でやってみる。

 一回できただけで力尽きた。

 まず足が高く上がらない。


「早苗、居間で踊らないで! ほこりがたつでしょう!」

「はあーい」


 母親の小言を生返事で返して、もう一度コーダの踊りを再生する。

 今度は玉枝先生が振りつけた踊りを踊ってみた。

 やっぱり音がとれない。



 (なんでだろう)


 DVDでは華麗にイタリアン・フェッテを踊っている。

 早苗はDVDを消して今度は自分の部屋へ行き、CDを再生してみた。


「1,2,3,4、1,2,3,4、」


 早苗のシュスとピルエットの直前のテンポを声に出して図る。


「あ! 分かった」


 今まで4拍まで数えていたのが、早苗の踊る直前で、2拍しかなかった。その分、踊りだしが早くなるのだ。

 しかし、踊りながらテンポを数えているわけにはいかない。

 感覚で分からなければ。


 早苗はコーダの曲を何度も何度も聴きなおした。曲もすっかり覚えるまで聴いた。


 (今度は大丈夫)


 もう一度最初から曲をかけて、踊ってみよう。

 そして、それは成功した。

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