#2

◆名誉な事!?自分たちの娘が、危険な旅に行かなければならないというのに、この両親は・・・・。


 家に戻り、お役目に選ばれた事を両親に告げたシホは、また言い合いをしていた。しかし、彼女がどんなに不機嫌になろうとも、お役目が決まったという事実は変えられない。

 馬の手配やら何やらで二日ほどが経ち、出発の前夜となった。


 何となくそわそわして眠れずにいたシホは、家から抜け出し、村の周囲を散歩していた。村外れにある岩に腰を掛けると、後ろの方から声が掛かる。

 「明日出発なのに、早く寝なくて大丈夫?」

 振り返ると、そこに居たのは同い年で幼馴染の少女だった。彼女がシホの隣に腰かけると、二人の艶のある黒髪を、月明かりが青白く照らした。

 「ちょっと眠れなくてね。ミュカこそ、こんな夜中にどうしたの?」

 「出発前に声掛けようかなって思ったら、シホが家から出て行くのが見えたから」

 「まさか、私が選ばれちゃうとはね。でも、王都に行けるまたとない機会か」

 「前から行ってみたいって言ってたもんね」

 「でもダンジョン探索は余計だなー」

 「そうだよね。無事、帰って来てね・・・・」

 「心配してくれてありがと」

 そう言って横を向くと、心配そうに見つめるミュカの顔が、今までより麗しくシホには見えた。お役目の不安からか、日々塞いできた気持ちが溢れたからかは分からないが、シホの口から思わず、純粋な言葉が飛び出した。

 「好きだよ、ミュカ」

 ミュカはニコッと可愛らしい笑みを浮かべながら、素直に返す。

 「私もだよ、シホ」

 その場に勢い良く立ち上がり、体をミュカの方に向けるシホ。その目を夜空に輝く星々を透かした様に、キラキラさせながら声を大きくした。

 「ほ、本当に!?」

 「どうしたの?そんな声出して。当たり前じゃない、私とシホの仲だもん」

 「じゃ、じゃあ、帰ってきたら結婚してくれる?」

 「結婚?シホ何ふざけてるの?」

 「ふざけてないって、真剣だって!」

 シホが見つめる中、ミュカは少し考える間を置くと、素直な微笑みが苦笑いに変わる。

 「ご、ごめん、シホ。友達として好きって意味で・・・・。だって私達、女の子同士だよ?変だよ」

 その場でシホは俯き、今にも泣きだしそうな弱々しい口調になっていく。

 「そうだよね、おかしいよね。やっぱり私って変だよね。でも何だか今日は、気持ちが抑えられなくて・・・・」

 そっと立ち上がったミュカは、今にも崩れ落ちそうなシホを優しく抱き寄せる。するとせきを切った様に、シホの目からポロポロと涙が零れ落ちた。

 ミュカはシホの背中をポンポンしながら、

 「シホがそういう子だって気が付かなくて。こういうの初めてだから、どうしたらいいか分からないけど・・・・。気持ち、受け止めてあげられなくて、ごめん」

 「・・・・余計好きになる」

 「ん、そっか。ねぇ、シホは自分に正直に生きられる強い子だよ。だから、私の事忘れられる、素敵な人と巡り合えるよ」

 「・・・・だからそういうとこだぞ、バカぁあああ~」

 「はいはい、ごめんね。でもこれからも私達は親友だからね」

 そうして暫くミュカの胸の中で気持ちを吐露し、泣き疲れたシホは家に帰ると眠りに落ちた。


 出立の朝を迎え、見送る村の皆の中から、ミュカの姿を馬上から探すシホ。二人は目が合うと、昨晩の気恥ずかしさもあって、お互い一瞬目を逸らしたが、すぐに笑顔で向かい合った。

 今更言葉は不要とばかりに、声は交わすことはなく、ミュカは村を出るシホの姿が見えなくなるまで、手を振り続けた。

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