夜の静寂の船での出来事
のの(まゆたん@病持ちで返信等おくれます
第1話
夜の静寂(しじま)に 魔物の女が‥
あの夜‥あの夜は一夜の夢 魔物が見せた夢だった
愛しい人の微かな声 囁くような優しい甘い蜜のような声
それは 戻れぬ時間 心地よい記憶の中の切ない思い出
白い裸体の女が服を脱ぎ捨て、それは妖艶な笑みを浮かべていたのだった。
中世の欧州
船の上で鷹一羽が大空を舞っている
「良い天候が続いている
良かった どうにか無事に目的地に着けそうだ」船乗りが笑う
それから 船の中に乗客たちの中にいる騎士たち
彼等は穏やかに会話をしていた
「マルタ騎士団からの頼まれたもの
スペイン帝国の王であり、皇帝に鷹を一羽、届ける大事な職務」
「彼等は仕方なく、私達に職務を託した 彼等の居住地での籠城、戦争中だ」
「この時代、多くの戦い、戦争 まだ戦いは続くだろう」
周りの者達が深くため息をつく、あるいは十字を胸元で描く。
「我らは騎士だ‥戦う運命だ 何処の騎士団だろうと役割を果す」
「今回は大事な届け物が任務」 運動の為に空に放った鷹を見る騎士達
見上げると紺碧の空を優雅に鷹が舞っていた。
「幾つもの騎士団か 騎士団は戦争で必要とされている」
「あのチュートン(ドイツ)騎士団はイエルサレムから去り
新たに東方に根をおろしたが」そのように騎士が呟くように言う
「他の騎士団 あのテンプル騎士団は気の毒だった」
「ああ、そうだな」
「エルサレムでソロモン王の神殿跡を守ってきた
数々の戦いの末 辿り着いたフランスでの悲劇」
「今回は民間の船での移動 騎士たちの船でないが まあ、そう悪くない」
「病に落ちたマルタ騎士団の騎士に代わり、鷹を預かりスペイン帝国に届ける役割か」
「今回は御蔭で、代わりにスペイン帝国の皇帝に謁見も出来るというもの」
「いや、スペインにいるマルタ騎士団の屋敷に数人いるらしく、彼等に届けるのみだ
残念だがな」 「なんだ、そうか」
「今回の籠城戦、戦争 どれだけの死傷者が出るというのか」
神妙な表情で騎士達が頷いた。
口笛を吹く騎士の一人 それは合図。
飛び疲れた鷹が答えてゆっくりと飛行を終えて決められた通り
騎士の腕へと降り立つ
「飲み物はいかがでしょうか?騎士さま達」声をかけられる。
「皆さま 連れてきた鶏を先程 調理しました
それに塩着けの魚の方も調理して、ご準備が出来ています」老女のリアが話かけたのだった。
「ワインにパンもまだ十分ありますので
ああ、今日はアーモンドミルクの飲み物もありますよ」
朗らかな顔のやや太った 一人の平民の老女が彼等に話しかける
「いつもすまない、ありがとうリラ」
騎士の一人が話して、他の皆も微笑む
「いえ、そんな」にこやかに微笑する老女リラ
「この船旅で 皆さまのお世話をするようにとご命令を受けております」
「飲み水が腐りやすいのが 船旅の難点だな それに果実や野菜も
連れてきた 籠に入れた鶏や兎は元気そうだ」
「雨が降れば樽にまた貯めますよ それに目的地には あと数日で到着です」
「そうか、ようやくだな 間もなく到着か」騎士が呟く。
騎士の一人が仲間の騎士に話しかけた
「騎士アライン殿 今回の旅は貴方の故郷の近くを通る
こんな機会はそうそうないですよ 寄り道して立ち寄りましょうか?」
「いや、有難う だが気使いは無用です 私が会いたい人はもういない」
切なそうな笑顔、微笑してアラインは答えた
何気ない動作で首元のペンダントにそっと手をやる
騎士アラインが首にかけている十字架のペンダントと共にある
小さな楕円形のもの つまみを押せば
恋心、慕った恋人の小さな肖像画であった。
結ばれる事がなかった一つの愛
愛しい恋の相手‥愛の想い出にアラインの心が揺れる。
そうして、フォっと見ると何処までも綺麗な青い空が広がっていたのだ。
数日後
いよいよ、ついに目的地に着く間際の夜の事
波音の聞こえる船の船室で
彼、鷹の入った鳥かごに布をかけるアライン
すると次には船室のドアを叩く音
ノックの音に反応してアラインは答えたのだった
「どうぞ」騎士アラインがドアを叩くノックの音の主にそう言った
「頼まれていたワインをお持ちしました」老女、リラが笑顔でワインを差し出す
「え、私は頼んでないが」驚き、老女リラを見るアライン
「おや そうでしたか?」にいと笑う老女リラ
波に揺られ 視線が一瞬、ぶれて眩暈を覚えた
そうして
「アライン様」 「え?」
振り返れば 老女、彼女の姿が変っていた 一人の美しい娘の姿
それはあり得ない現実
船底の部屋に居ないはずの愛しい恋人がいたのだった。
「私のアライン、どうして私を置き去りにして 何故、遠い地に行ってしまったの?」
メアリーの瞳から涙が溢れ、ポロポロと涙の雫が零れ落ちてゆく
「修道士騎士となり 私を捨ててしまったアライン
私がどんなに悲しかったか」
「メアリー?」そんな様子のメアリーを見つめるアライン
船の小さな揺れを感じた ギイギイと軋む音もする
「私は貧乏貴族の三男だ だから、金もコネもない
だから、そう、だから仕方なかったのだ 愛しいメアリー、分かるだろう?」
「だからこそ、所縁ある騎士団に入った 貴族階級にある貴族の義務
誇り高い貴族の義務 国の礎になる覚悟、 ノブレスオージュと言われる言葉
その貴族の義務を果たすべく‥騎士になったが」
「貴方を幸せにする事は出来なかった」アラインは哀しそうに答えた
「それに既に貴方には親が決めた男がいた
金も地位もあり 穏やかな気質の男」
「だが、深く愛していた 貴方の幸せを心から願った」
「貴方以外はいらない 私のメアリー 私の愛する人」
「ああ・・アライン様 その言葉が欲しかったのです」甘く響くメラリーの声
「アライン様」涙ぐみながらメアリーは彼の腕の中に飛び込む
美しい娘、恋した 彼が恋した人、愛するメアリー
「愛していますアライン様」「メアリー」
彼女から甘い花の香がする
マグノリアのような甘い花のような香り 記憶の中の愛しい娘
彼女はアラインの唇にそっと自分の唇を重ねる
重なる唇の甘さ、重なる互いの想い
ぼんやりと それからハッとなる
いや、違う
便りが届いた 知らせがあった
一年前にメアリーは出産の産褥熱で死んだのだ
慌てて彼女、メアリーから飛びのく
「誰だ?何故、メアリーの姿をしている」聞いた知らせの記憶に違和感に気がつく
「うふふ、良い血の香りをさせているわ 貴方、アライン騎士様
私は以前 メアリー様にお会いしましてよ 綺麗で優しく控え目な御方」
「私は彼女、メアリー様の張り裂けるような切ない想いはお伝えましたわ」
「無くした恋」綺麗な女の声が船室に響く。
「楽しいひと時の過ごして
つかの間の悦楽を差し上げようと思いましたが まあ、仕方ありませんね」
別の女の姿に彼女は変わる 妙齢の美しい女
金の巻き毛に緑の瞳
口元に見えるのは小さな牙
「魔物か!」
騎士アラインが剣を取り抜くより早く、魔物の女はアラインの首すじに牙を立てる
翌朝の事
「良い天気だ」風に吹かれ気持ち良さそうに話すアライン騎士
「そうですな アライン殿」
「修道騎士様方、無事に船が着きましたね 本当に良かった
これからの陸路、旅のご無事をお祈りしたします」食事の世話をしてきた
老女リラがにっこりと笑う
「ああ、貴方にも大変お世話になった 有難う」アライン騎士達 騎士が礼を言う
「貴方にも神のご加護とお慈悲がありますことを」
互いの無事を祈る 船旅の終わり
鷹が 老女リラが近づくと 羽を動かしバタバタと騒ぐ
「おや、どうした?」「さあ、一体?」
船から降りた一行は 道をゆく、やがて夕暮れの時間
やがて見えてきた 二つの道がある
一つはアラインの故郷の街へ繋がる道であった
此処にいないはずの女の声がアラインの耳元で囁く
「戻る事のない故郷なら愛しいメアリー嬢の墓参りでも
された方が宜しいかと・・うふふ」
何だ、空耳か? 不思議な想いで 乗っていた馬の歩みを止めて
しばし立ち止まり 口を開いた
「すまぬが 一度だけ我が故郷に戻りたいのだが」
他の修道騎士たちは 笑顔で優しく微笑む
「ええ そうしましょう」
高い木の上で 一人の女の姿をした魔物がそれを見ていた。
「ヴィクトリアン」「はい ではまいりましょうかシオンさま?」
魔物の女は彼等を見送り 自分の主に微笑する。
「今宵の御話はこんな処かしら? 只の御伽話かも知れなくてよ うふふ」
夜の静寂の船での出来事 のの(まゆたん@病持ちで返信等おくれます @nono1
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