第6話 精霊街道
どこまでも続きそうな地下通路。
水場があった場所から離れ、しばらく歩いていると、不意に僅かな気配を感じて立ち止まる。
―――スゥーー~―――
先の方に見える緑色の淡い光。
手に収まるほどのそれが、空中を漂うように近づいてくる。
――よぉ、人間、俺が見えるかい?――
頭の中に直接、少年の様な声が響いてくる。
俺は無言で剣を引き抜き、その切っ先を緑に光るそれへと向ける。
――こりゃ当りだな、ちょい待ち、いま道を通してやるよ――
こちらの対応も何のその。
まるで気にしたそぶりを見せず、それは勝手に話を進めて何やら「むむむ」と力んでいる。
敵意は感じない。
だが面倒ごとに巻き込まれそうな予感がした俺は、斬ることを選択した。
――おいおい、物騒だな、止めてくれよくすぐったい――
剣を二、三度振るうも手ごたえはない。
ならば、と俺は神力を練り上げ、剣に纏わせる。
――へぇ、
神力を纏わせた剣。
その存在ごと斬ろうとするが、寸前で泡沫のように光が消えていった。
頭の中に響く声は止み、すぐそこにあった気配も感じない。
しかし、先に感じる異様な道程が、俺の警戒心を引き立てる。
「精霊……、面倒なのに目を付けられたな」
精霊。
それは魔物と相対関係にある超自然的な存在。
見えぬ者には無関心。
見える者には悪戯心。
精霊に目を付けられた人間は、何かしらの面倒ごとに巻き込まれるが世の常だと言われている。
現に、教会関係者の中で精霊に悪戯された者はその後、消息を絶つか、不審死を遂げるか、難病で床に伏すか、四肢を失うかしているという記録が幾つか残されている。
愛されたのなら
関わるだけ人生損するのが精霊。
いらぬ警戒をせず、見えぬふりをしてさっさと通り過ぎればよかった。
こんな時に、…運がない。
「…おいちくないよ? お料理してもおいちくならないよ?」
精霊が見えなかっただろうリーニア。
不審者な俺の行動をみて、背後で腰を抜かして一生懸命に命乞いをしている。
俺は剣を鞘に納めた。
「行くぞ」
腰を抜かして動けないリーニアを抱え、俺は仄かに明るく歪む道を進む。
退路は無い、なら精霊が用意したこの道をいくしかない。
何処に繋がっているかは運しだい。
産まれながらに無いそれを頼りにするとは、いよいよ死が近いのかもしれない。
俺は軽くため息を溢した。
「リーニャ重くてごぺんね?」
「重くない、気にするな」
「ありがとね?」
「……」
さっき以上に顔色を青ざめさせて震える仔猫もといリーニア。
腕の中で心象をよくしようと必死だ。
喧しいのもあれだが、これだけ怯えられるのも気が引ける。
この年頃の娘とどう接するのが正しいのかが分からない。
俺は溜息が出そうになるのを堪え、警戒しながら先へと進む。
勇者の双子として産まれた俺、亡国の我がまま王女と魔界旅行 馬面八米 @funineco
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