第1章 寝取りと裏切りと
第1話 日常とはいとも簡単に壊れゆく
日常って何なんだろうか。
普段そんなことを考えたことはなかったが、今はどうしても考えてしまう。
それだけ、目を背けたいことがあったから。
その日も、いつもどおりに過ぎ去ると思っていた。
朝、寝起きが決して良くはない俺を起こしに来る彼女。
「起きて正信、遅刻するよ!」
ユサユサと体を揺らすのは、幼馴染にして最愛の初カノ兼今カノの千春。
必ず毎朝起こしに来るその律義さがまた、余計に惚れさせる。
朝ご飯を一緒に食べるのも、もはや習慣と化していた。
お互いの両親の仲が良いからこそできる芸当ではある。
寝起きでまだまともに回ることのない頭を必死に回転させながら、なんとか朝食を終える。
身支度を整えるときこそ一人だが、その間に気づけば鞄が玄関に移動している。
学校に行くのも一緒だ。
同じ家から出て、ずっと手をつなぎながら歩く。
電車に乗ってもそれは変わらない。
車両の端っこの方に乗って、乗り換えるときは始発電車を待って隣同士で座る。
学校につくまでの間、電車内でこそ会話はしないが。
歩いているときに会話は絶えない。
だいたいは他愛もない話だけど、それがやっぱり心地良い。
「そういえばさ、今日の夕飯はうちくる?お母さんが「正信くんは来るの?」って聞いてきたんだけど」
「そうだな、久しぶりにお邪魔しようかな?」
「久しぶりって言っても一昨日来てたじゃん」
「そういえばそうだったか。すっかり忘れてたわ、もうボケが来てるのかもしれないな、これは」
「そんなわけないじゃない、もう……。まだそんな年じゃないでしょ?」
「当たり前じゃい!まだ10代やぞ、ピチピチやぞ?」
「う〜〜ん、言葉のセンスが絶妙に古いのよねぇ……」
ボケても鋭いツッコミが絶対に返ってくるという安心感があるからこそ、これといった気を使うことなく過ごせるのが、ポイント高いところ。
学校についてからは、周りに配慮してそこまでいちゃつくことはない。
強いて言うなら、昼休みと放課後くらいである。
放課後は、一緒にどちらかの家に帰るのがいつものルーティンだった。
ただ、最近はそうでもない。
千春に用事があることが多いからだ。
そういうときは、だいたい先に帰っていることが多い。
今日も、千春は用事があるということで、先に帰ることになっていた。
いつもであれば、別に学校に戻ることはなく、まっすぐ帰る。
だが、今日は異なった。
いつも忘れないはずの定期券を忘れたのだ。
教室の外、廊下にあるロッカーに入れっぱなしだったのを忘れていたのである。
ロッカーを開けて定期券を取り出したとき、ふと俺は教室に人がいる感じがして覗き込んでしまった。
だけど、俺はその「教室を覗く」という行為を、今では大後悔している。
なぜなら。
教室の中でハグをしていたのは。
俺の彼女である千春と、俺の親友だったはずの邦彦だったから。
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