第33話 2人の日常

「癒しが欲しいですわ。」


キリエたちの旅は過酷なものになっていた。

深い森の中を進んでいるため以前にも増して魔物との遭遇が多くなっているのだ。


おかげで食糧には困ることなく旅は続けられている。


「そうだな。長いこと物騒な森を歩いてきたからな。」


「せめてなにか面白い話でもないですの?」


「面白い話ぃ?」


アクリョーは生前から人と話すのが得意な方ではなかった。

幽霊になってからはキリエとずっと一緒にいるため、話せるようなエピソードトークもない。


アクリョーは頭をフル回転させ何か話題を探した。


「そういえばお前、あれは全然使わないよな。

付与魔法だっけ??

物の特性を別の物に与える精霊術。

普通の魔法よりはあっちの方が得意だったろ。」


「そうですわね。

でも、なかなか使い所がないんですわよ。

今なら魔法の威力が上がってそっちで十分ですもの。」


「そうか?割と苦戦することも多い気がしてるけどな。

なんか考えないとダメじゃないかなぁ。」


キリエは楽観視しているが、アクリョーは自分がいなくなってしまうとキリエが脆いことを理解していた。


「付与魔法って人体にも使えるもんなのか?」

「そんなことできるわけないですわよ。」


「そうか。もう試したのか。」

「試してはないですけど。」


「なら試してみようぜ。

拳を岩に変えたりできたら戦いで使えそうだろ。」

「それで身体中が石になって動けなくなったらどうするんですの!」


「...それもそうだな。結構怖いな。

あ、でも逆に人を石にする魔法として使えるんじゃないか?」


「恐ろしいこと考えますわね。」

アクリョーの考えにキリエはドン引きした。


「付与魔法は元にも戻せるんだろ?

なら問題ないだろ。」

「石になった人間が生きてると思ってるんですの?

戻したら死体とか、戻したうちに入らないですわよ。」


「それは...そうだな。仕組みがよくわからないからなぁ。

でも魔物とかに使うならいいだろ。

石化魔法なんて効くなら相当強い魔法だぜ。」


「まあ、それならいいですけど。

物に触れないと使えないからあんまり実践じゃ使え無さそうですわよ。」


「ものは試しだ。

ほれ、そこに飛んでる蝶々でも捕まえてやってみろよ。」


キリエは言われるがまま蝶々を捕まえ、片手には石を持って付与魔法を試した。


「だめですわね。

やっぱり生き物には使えなさそうですわ。」


「そうかぁ。いいと思ったんだけどな。

生き物ってなんなんだろうな。」

「哲学的な話ですの?」


「いや。まあそうかもしれないけどさ。

付与魔法が使える対象の話だよ。

例えば...髪の毛を抜いてみてそれに使えるかとかさ。」


キリエは髪の毛を1本だけむしり取り付与魔法を試した。


「いけますわね!髪の毛が石みたいになりましたわ。」


「おー!生命から切り離された時点でいけるのか!

じゃあ髪にナイフの性質を付与すれば、千本みたいな投げ物の武器として使えそうだな!」


「そんな戦い方してたらハゲ散らかしますわよ。」


「ま、まあ命が宿ってなければ使えるってわかっただけでも収穫だよ。

討伐した魔物の運搬とかもさ、鳥の羽根とかを付与すれば軽くなって運びやすくなるんじゃないか?」


「...それは早く知りたかったですわね。」


キリエとアクリョーはだらだらとおしゃべりをしながら、今日も旅を続ける。

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