第32話 犬も食わない
「あの受付嬢、ビーストベルトまではトロワ村くらいしかないって言ってのは何だったんだよ。
違う村もいっぱいあるじゃん。」
アクリョーの中でただでさえ信用ならない冒険者ギルドへの信用度が下がった。
「ヨウニーからヒコウまでとは比べ物にならないくらい歩きづらいですわね。
嫌になってきますわ。」
ヒコウの町までは馬車も倒れるような道だったが、今キリエが歩いているのは馬車などは通れない道というのもおこがましい森の中だった。
長いこと旅をしてきた2人は疲れが出て文句ばかり言うようになっていた。
「本当にこっちであってるんだろうな。
見渡す限り森しかないぞ。」
「知らないですわよ。
北って言ってたからとにかく北に歩いてるだけですわよ。」
手際よく旅の準備を進めたり、豊富な魔物の知識を持っていたりとキリエの成長を感じ信頼していたアクリョーだったが、根っこは勉強嫌いでぐーたらなお嬢様のままであることを再認識した。
「キャンキャンキャンキャン!キャンキャン!」
森の中に何かの鳴き声が響いた。
「なんだ!?魔物か!?」
ガサガサガサ
草むらから小さな何かが現れた。
「...犬?なんだ犬か。可愛いな。
チワワか?野生のチワワなんているんだな。」
可愛らしい小さなチワワを見てアクリョーは安堵した。
「え、ええ。アクリョーのくせによく知ってましたわね。」
「俺の世界にも居たからな。
まあ野生がいるのかは知らないけど、
小さくて可愛いからペットとして人気だったな。」
「あれを飼うですって!?」
アクリョーの話にキリエは驚いてしまった。
「イかれた目つきで邪悪に笑い、生き物の血を啜っては笑い狂う。
あの
「え、うん。チワワだよ。そんなに恐ろしいのか?」
アクリョーが目の前のチワワをよく見ると、ニヤリと笑う口元には血が滴っているようだった。
キリエと
先に動き出したのは
「アイスブラスト!」
迫り来る
しかし
「すばしっこいですわね...
サンダーボルト!」
「キリエ!!」
「ウィンドバースト!」
キリエの眼前まできていた
「くぅーん...」
「倒せたか。
あの身のこなしはかなり厄介だな。」
「厄介なのはこれからですわよ。」
キリエは走り出した。
「厄介って、なにがだよ?」
「すぐにわかりますわ。」
「...ン...ャン...」
遠くから微かに何かが聞こえる。
「キャンキャンキャンキャンキャン!」
森の中から大量の
「嘘だろ!?」
「
だから1匹やるとどんどん集まってくるんですわよ。」
「知ってるならなんか別の方法なかったのかよ!」
「襲ってきたから倒すしかなかったんですわ!」
「だいたいあなたが可愛いだなんだとうるさいからこうなったんですわよ!」
「俺のせいかよ!
なんだ?可愛いって言ってるのを見て嫉妬でもしたのかよ。」
「キャンキャンキャンキャン!!」
言い争いながら逃げる2人に
「このままじゃ追いつかれるぞ。
痴話喧嘩なんかしてる場合じゃないって!
...チワワだけに。」
「誰があなたと!
まあ、どうにかしなきゃですわね...
駆ける者よ。その歩みを止めたまえ!
アイスバーン!」
キリエは走ってきた道を凍らせた。
何匹かの
「焼け石に水じゃないかよ!
もっと他になんかないのかよ!」
「今考えてますわよ!
他の...水...!」
「ウォーターショット!!」
キリエは巨大な水の塊を放った。
しかし
...いや、躱したのではなく
「ふぅ。そうでしたわ。
「なら最初からそれやれよ。」
キリエは魔法で出した水で喉を潤し、呼吸を整え旅を続けた。
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