第28話 初めての依頼

「ほんとによかったのか?

冒険者登録なんかしちゃって。」


登録を終えギルドの中を歩くキリエにアクリョーが尋ねた。


「いーんですわ。

そもそもあなたが言い出したことですわよね?

お金なんて稼げばいいんですわ。」


「いや、そうだけどさ...

てかよくあんなに金持ってたな。

あとどのくらいあるんだ?」


「0ですわ。」

「え。」


「嘘ですわ。」

「なんだ嘘かよ。ビビらせやがって。」


「孔銀貨数枚ってとこですわね。」

「1日でなくなる額じゃないかよ!

これだからお嬢様の金銭感覚は。」


「冒険者になったんですわよ?

稼げばいいだけですわ。」


キリエは目の前の掲示板に貼られた依頼を物色し始めた。


「1番高そうなのは...これですわね。」


「なになに...?

高級食材"ウニコーン"の捕獲又は討伐。

炎や雷による品質の劣化や損傷が激しい場合は報酬額が低下します。

報酬は1匹につき銀貨1枚。

...まあ、悪くはなさそうだな。

ウニコーンとやらがどれだけ強いのかはわからんが。」


「昔一度だけ食べたことがありますわ。

少し磯の風味がする脂がすごく濃厚で!クリーミーで!

口の中に甘さがとろけるんですわ!」


「味は聞いてねぇよ。強さだよ強さ。」


キリエは依頼書を剥がし受付へ行った。

ウニコーンの生息地などを聞き、早速依頼に取り掛かった。


_______

2人は町から少し離れた海辺までやってきた。


「おー!海だなー!

...とはいえこれと言った驚きはないな。

怪物が海から顔を出してるわけでもないし、普通の海だな。」


「これが...海。」


キリエは初めて見た海に言葉を失ってしまった。


「おい。ぼーっとするなよ。

海沿いは危険なんだろ?」


「こんっなに広いんですわね!

向こうまで何も見えないですわよ!」

キリエは走り出した。


「見て!足が引っ張られる!すごいですわ!」


波と戯れるキリエは子供のようにはしゃいでいた。


「おい!海の魔物は強いんだろ!?

戻ってこいって!襲われても知らないぞ!?」


「大丈夫ですわよ。

このあたりにウニコーンが出るって話ですもの。

それより強い魔物が出てくるわけ...

「ブルルルル。」


「またこの展開ですの!?」

キリエは振り返りざまに風の魔法を放った。


魔物が後退する間にキリエも急いで海から距離を取った。


「だから言っただろ!海に住むやべぇやつじゃないか!?」


「いえ。あれがウニコーンですわ。」


身体中から角が生えた馬のような魔物がキリエに向かって突進してきた。


「ウォーターショット!」


大きな水の塊がウニコーンに直撃した。

しかしウニコーンは突進を続ける。

キリエはギリギリのところで横へ躱した。


「海から出てきたんだ、水くらい耐えて動けるだろ!

他に何かないのか!」


「ごちゃごちゃうるさいですわ!

アイスブラスト!!」


キリエは全力で巨大な氷塊をウニコーンへ放った。


ドゴーンッ ...ピシピシ

...パリーンッ!


氷塊は無数の角に突き刺さり砕け散ってしまった。


「おい!あれでも効いてないぞ!

キリエ!命を大事にだ!

炎でもなんでも手段を選んでる場合じゃないぞ!」


ウニコーンは再びキリエの方を向き、突進しようと構えている。

キリエは海から離れるように逃げ出した。


ウニコーンも突進を始めキリエを追いかける。


「ウィンドバースト!!」


暴風がウニコーンの足を止める。

しかしダメージにはならず、突進を再開した。


「時間稼ぎにしかなってないぞ!

角の鎧を無視してダメージを入れるなら炎とかを使うしかないって!」


アクリョーはキリエを助けるために必死で助言する。

だがキリエはそれを聞かなかった。

初めての依頼は完璧な形で達成したい。

その気持ちをまだ諦めていなかったのだ。


(たしかにどこから攻撃しても全身から全方向に生えた角に邪魔されますわね。

どこか角のない部分があれば...

!!足ですわ!)


「駆ける者よ。その歩みを止めたまえ!

アイスバーン!!」


キリエとウニコーンの間の地面が凍っていく。

その上を走るウニコーンの脚が地面からの氷に侵食された。


「ヒヒーーーン!」


「おお!やったか!」


ウニコーンは地面から関節のあたりまで凍りつき動けなくなったようだ。


「あとはトドメを刺すだけですわね。」


プルプルプルプル...ピシッ パリーン!


「嘘だろ!」


ウニコーンのあまりの脚力に氷が耐えきれず砕けてしまった。


「や、やばいですわ!」


キリエは慌てて距離を取る。

ウニコーンはすかさず突進を始める。


ツルーンッ


ウニコーンは転んでしまった。

体の横から生えた角が地面に突き刺さっている。


「...」


「ヒヒーーーン!ヒヒーン!ヒヒーン!」


ウニコーンは必死にもがき宙に浮いた脚をばたつかせている。


「け、計算通りですわ!」

「いや、めっちゃ慌ててただろ!

まあ、キリエに怪我もないしこれで無事完了だな。」


キリエはあがくウニコーンに近づき、ゆっくりと全身を凍らせていった。


炎も使わず大きな損傷もさせず無事にウニコーンを討伐した。

しかし大きな問題があった。


「...これどうやって町まで運ぶんだよ。」


「そ、それは...」

「考えてなかったのかよ!」


「か、考えてますわよ!」


______

「駆ける者よ。その歩みを止めたまえ!

アイスバーン!」

「ウィンドバースト!」


「駆ける者よ。その歩みを止めたまえ。

アイスバーン。」

「ウインドバースト。」


キリエは地面を凍らせ、風の魔法で滑らせて冷凍ウニコーンを運んだ。


町に着く頃には空が紅く染まっていた。

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