第26話 ビーストベルト
冒険者になることを決めたキリエはごろごろして体を休めたり、カバンをひっくり返して荷物を整理し必要なものを洗い出したりして過ごした。
夕方になり晩御飯を食べにキリエは部屋を出た。
昨日は寝ていて気づかなかったが、この店はなかなかの人気らしい。
「あら、いらっしゃいませ。
ごめんなさいね。この時間は混んでるから、相席でいいかしら?」
「え、ええ。構わないですわ。」
キリエが通された席にはすでにトゲのついた肩パッドをした強面のおじさんが座っていた。
「失礼しますわね。」
「おう。いいぜ。
可愛らしいお嬢さんだな。1人かい?」
「なんだぁてめぇ。ナンパか?ナンパなのか?」
アクリョーはおじさんの眼前でイキっていた。
「ええ。1人ですわ。」
「そうか。見かけない顔だな。冒険者か?」
「冒険者ではないですわ。」
話していると店主がやってきた。
キリエはペガ刺しとシチューを注文した。
「冒険者でもないのに旅してるのか。
田舎から出稼ぎってやつか?
それならやっぱり王都だよな。
人が集まるところには職人でも店番でも仕事はたくさんあるからなぁ。」
おじさんが1人で話を進めて語っていると料理が運ばれてきた。
「これから冒険者になろうと思ってますわ。
行く宛はまだ決めてないですけど。」
そう言ってキリエは料理を食べ始めた。
「そうかそうか。嬢ちゃんも冒険者になるのか。
こう見えて実は俺も冒険者なんだ。」
「どう見たって冒険者だよ!
じゃなけりゃここは世紀末だよ!」
「そうなんですのね。」
キリエは適当に相槌を打ちながら箸を進めた。
「ああ。俺はこの町に長いこと居てな。
なんたってここの飯は美味いからなぁ。
だけど若いうちは色んなところを見るのがいいな、やっぱり。
行ってみないとどこの飯が1番美味いかなんてわからないからな!」
「1人で旅してきたってことは嬢ちゃんなかなか腕に自信があるんだな?」
「まあ、それなりですわね。」
「はっはっは!余裕があるやつはクールだぜ!
それならビーストベルトに行くのもいいかもな。
あそこは魔物が多いんだ。
大きな町がいくつも存在しててどこも冒険者の仕事で溢れてやがる。
冒険者で稼ぐならあそこが1番さ。
気軽に国を出て別の国でやってけるのも自由な冒険者の特権だからな。」
「ビーストベルト...」
「おっ、興味が湧いたかい?
やっぱり金が1番だよな?がっはっはっは!」
「そうですわね。検討してみますわ。
...ごきげんよう。」
食事を終えたキリエはまたすぐに部屋へと帰っていった。
「ビーストベルトか。行ってみたいのか?」
アクリョーはベッドに転がるキリエに話しかけた。
「別になんでもないですわ。
ただ、あそこの魔物は...」
アクリョーはなにかを察した。
「そうか...
山の向こう。ビーストベルトから魔物がやってくるもんな。」
キリエを長年悩ませていた両親が仕事に出る理由。
それは山からやってくる魔物に対処するためだ。
あの日、町を襲ったのも山から来た魔物。
キリエは何か思うところがあったようだ。
それが何かはわからない。
憎しみなのだろうか。
それとも同じ犠牲を出したくない使命感だろうか。
「まあ、なにか思うところがあるなら行ってみればいいさ。
行ってみて気分が晴れるかもしれないし何も変わらないかもしれない。
その時にまた何か考えればいいさ。」
「そうですわね。」
「なんにせよ。明日は冒険者ギルドにお出かけだな。」
「冒険者...」
キリエはこれからの冒険への期待と不安を胸に眠りについた。
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