第11話 憧れの魔法

森へ行った翌日、お母様が遠征から帰ってきた。


「お母様!お帰りなさいまし!」


「だだいま。キリエ。」

お母様の返事も聞かずキリエは飛びついた。


「お母様!!

私、精霊術が使えるようになりましたわ!!」


「そうなのね!すごいわ!

お母さんにだって精霊術は使えないのよ!

今日はお祝いにしましょうか!」


早速使用人たちに話を通し祝いの準備を始めた。

キリエが精霊術を使えた記念とハバキが正式に先生になった歓迎会だ。


_______

「こんなご馳走、私にまでありがとうございます。」

ハバキは遠慮しながら感謝を述べた。


「いいんですのよ。キリエがこんなに嬉しそうなんですもの。

先生のおかげですわ。

これからも娘をお願いしますわ。」


「いえいえ。こちらこそお世話になります。」


堅苦しい挨拶を終えるとキリエのお母様自慢やハバキの冒険譚など3人は仲良く談笑した。


食事を楽しんでいると最後にはデザートにいちごのタルトが運ばれてきた。


「この町はいちごが有名なんですのよ。

ぜひ食べてくだださいまし。」

お母様に勧められたハバキは一切れ手に取りかぶり付くとあっという間に食べ切ってしまい、二切れ目にも手を伸ばした。


「そういえば、ハバキはどうしてそんな格好をしているんですの?」


お嬢様の質問にハバキは我に帰り、喉元を叩きながら口の中のタルトを飲み込んだ。


「格好ですか...」


ハバキは口籠った。

何か言いづらい理由があるのだろうか。


「そうですわね。

メイドでもないのに箒を持ち歩くなんて、そんな冒険者は見たことがないですわね。」

お母様も疑問に思ったようだ。


「ちょ、ちょっと恥ずかしいのですが...

小さい頃に大好きだった絵本がありまして。

箒に乗って空を飛ぶ魔法使いが旅をするお話です。

私はその魔法使いに憧れて冒険者になったんです。」


初めは照れていたが、一度話し始めると饒舌に語り出した。


「最初は子どものごっこ遊びだったと思います。

絵本の魔法使いの格好を真似して魔法の特訓をしていました。


そしたら友達に馬鹿にされて...

憧れた魔法使いまで馬鹿にされたように感じて、意地になって毎日魔法の特訓をしたんです。

その結果、魔法が使えるようになりました。


だけどできたのはキリエ様と同じようにちっちゃな火を起こすことだけだったんです。


それから周りのみんなも魔術を習うような歳になって。

もちろん私も一緒に学びました。

ですが不思議なことに、教わったやり方よりも今まで独学でやってきたやり方の方が威力の高い魔法が使えたんです。


その時ようやく魔術じゃなくて精霊術を使っていたことに気づいたんです。

結局また1人で精霊術の特訓を続けました。」


「先生も苦労なされてるんですわね。」

お母様は涙ながら同情した。


「いえいえ。そんな。

...ですがそんなある日、突然一人前の魔法使いのように精霊術が使えるようになったんです。


冒険者になってから色々と精霊術の本を探してみたのですが、急に上達した理由は今でもわかっていません。

だけど、あの魔法使いに憧れなければきっと、魔術を学んでも魔力が少なくて諦めていたことは確かです。


だから私をずっと支えてくれたこの箒と帽子は今でも変わらず大切にしているんです。」


ハバキは箒を抱きしめながら語り終えた。


「そうなんでしたのね。

だけど箒で空を飛ぶ魔法なんて聞いたこともないですわ。

お母様にだってできないですし。

ハバキは夢見る乙女なんですわね。」


ハバキの熱い身の上話は子どものキリエにはあまり刺さらなかったようだ。


「そうですよね。

そんなは聞いたこともないですよね。」


ハバキが話している間にキリエはいちごタルトを食べ尽くし、歓迎会は終わった。

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