ラブコメは学校の外で。

にゃー畜

ラブコメたるもの

『ラブコメ』

全高校生男子なら一度は憧れる言葉だ。


王道で言えば冴えないけど実は優秀な主人公が周りの女の子を堕としていったり、

最近だと主人公の親友ポジだったり、モブポジのやつがラブコメしてたりもするな。


この俺、城崎一成しろさきいっせいも例外ではなく、期待と希望を胸に一宮高校へと入学した。


そう…今では無い期待と希望を胸に…な。



「はあ……。どうしてこうなった……。」

「まーた憂鬱タイムに浸ってんのかお前は」

「……なあタツ。俺はこの高校に女子が多いと聞いて入ったんだ。」


俺がタツと呼ぶこいつは古賀達広こがたつひろ

俺の親友であり、同じバトミントン部に所属している。


ん、なんかラブコメの冒頭っぽいなこれ。


「……まあ入学パンフレットには女子6~7割ぐらい居そうな書かれ方だったな。」

「そうだ。だが入ってみれば現実は…、」


そう言ってクラスを見渡す。

男、男、男、男、男、


うん、男しかいないな。


「ここは男子校か?男子校なのか?」

「共学だ。現実逃避はやめとけよ一成。」


1年間この高校に通って分かったことがある。


どうやら俺らが入学と同時に卒業した代に異様に女子生徒が多かっただけらしく、

その代が居なくなった今、我が校の男女比率は9:1と絶望的なことになっている。


「考えただけで憂鬱になってきた。心無しか頭も痛い気がする。」

「いくら何でも重症すぎるだろって。」

「よし、早退するわ。後は頼んだぞタツ。」

「は、はぁ!?おい待てって!」


制止しようとする親友を後に、俺は保健室へと向かった。


♦︎


「流石にやりすぎたか…?」


だがまあ、誰もいない通学路というのも中々味わえるものでは無い。聞こえてくるのはセミの鳴き声とちびっ子の遊んでいる声のみ。


うむ、実にノスタルジック。


……さて、この後どうしようか。

訳あって俺は一人暮らし中、早退しても親に怒られる心配もない。


「コンビニでアイスを買って家でダラダラ…いや図書館に行って優雅に読書というのもいいな……。」


この後の時間に頭を悩ませながら歩く。

ああ、実に幸せ――「あのー…ちょっといいですか?」


「うぐっ!」

「いやそんなに驚かなくても…。」


突然女子に喋りかけられて驚かない方が無理があるだろ。しかも肩まで触られたし。


見た目的には…高校生?中学生?

まあどっちでもいいか。


「あーすまないすまない。何か用でも?」

「私、熱中症になりかけてるんですよ。」


ん?


「ごめん、なんだって?」

「その…熱中症に……。」


目の前にいる女子がフラフラし始めた。

まずい、これガチで熱中症か。

よく見たら汗もすごいことになってる。


「おい、救急車呼ぶか?」

「そ、それだけはやめて……。」

「はあ?」


救急車を呼ばない。つまり近場で涼を取れる場所ってなると…俺の家が1番近いか?

不幸中の幸いでエアコンつけっぱなしで出たから部屋も涼しいはずだし……、


「よし、おんぶするから早く乗れ。」

「わ、分かった……。」


歩かせるのはまずいと判断した俺は状況が全く分からないまま、家までその子をおんぶしてダッシュしたのであった。




「――すいません、助かりました。」

「それは何より…なんだけど、」


あの後自宅のアパートにダッシュで到着した俺は、氷・経口補水液・冷えた部屋・扇風機とできる限りの処置を施した。


苦労の甲斐あって助けた本人は元気になったようなんだが……、


「なんであんな状態になるまで歩いてたんだ?」


飲み物を買って、コンビニとか図書館で涼を取ればいくらこの暑さでもへばることは無いはずだ。


「……うーん。ちょっと色々あって。」

「まあ、言いたくないならいいけど。無理はしない方がいいぞ。」

「……すいません。」


「「……。」」


それ以降話すことも無く、沈黙が訪れる。

あー気まず、気まずいよこれ。


「その制服、一宮高校の方ですか?」

「ああ、うん。そうだよ。」


突然話しかけられたと思えば学校の話か。


ん?てかこの子の制服って……


「……清桜高校の人?」

「あ、はいそうです。よく分かりましたね。」

「この辺だとセーラー服の高校は清桜高校ぐらいだし、なんとなく。」


清桜高校はそこそこ有名なお嬢様高校だ。

社長令嬢みたいなのもチラホラいるらしい。


「なんでそんな清桜高校の生徒が昼間からこの辺を歩いてるんだ?」


清桜高校は今俺が住んでいる街から数駅離れた所にある高校であり、昼間からこの辺にいると言うのは少し疑問が残る。

まあこの辺に住んでるだけかもしれんが。


「……サボりました。それで適当に歩いてたらこの辺に辿り着いちゃって。来たこともないのでどこに何があるか分からず……。」


少し頬を赤らめ、俯きながらそう告げる目の前の女子に俺は思わず笑いが出てしまった。


「笑わないでください。」

「ごめんごめん。俺と同じだなーって思っただけ。」

「……あなたもサボったんですか?」

「そ、お前と同じサボり野郎だよ。」

「別に常習犯でもないのに…サボり野郎と言われるのは心外ですね。」


ここまで軽口を叩けるなら大丈夫そうだな。

と内心ほっとする自分がいた。


「あと…その、大変恐縮なんですがお風呂を貸していただけませんか?」


爆弾発言とはこのことか。


「おい待て。自分がとんでもないことを言っている自覚をした方がいいぞ。」

「もちろん無礼は承知です。お礼は先程の件も含めて必ずしますので……。」

「そういう話じゃなくてだな……。」


的はずれな回答に頭を抱える。

なんだ、これが天然というやつなのか?


「大体、俺はお前の名前すら知らない赤の他人だぞ。」

桜見双葉おうみふたば、清桜高校2年です。あなたは?」


見た目的に中学生…あっても高一かと思ってたらまさかの同い年。

嘘だろおい。


「……城崎一成。一宮高校2年だ。」

「へぇ!同い年なんですね!」


同い年と分かるやいなやわざとらしいぐらい顔が明るくなった。


「まあ同い年とかの話は置いといて、ともかく風呂は貸さんぞ。」

「そこをなんとか……。」


どういうシチュエーションなんだこれは。

普通あれだろ。

ある程度親しくなった男女が雨に濡れた女子を家に誘うというイベントでは?


会って1時間も経ってない女子とやる事じゃない、絶対に。


「というかそもそも、お前は危機感が無さすぎるんじゃないか。」


さっき会ったばかりの男の家で風呂に入ろうなんて下手したら警察沙汰だ。

それに……


「男の俺から言わせてもらうが、お前は整った顔をしてる訳だし。」

この意味が分からないほどこいつはアホじゃないだろう。


「ふむ…確かに危機感が無さすぎましたね。善処します。」


ですが、と桜見は続ける


「あなたにその危機感とやらを抱く必要はなさそうなので。」


どうしてここまで信頼度が高いんだ。

箱入り娘とかでその辺抜けてたりするのか?


「どういう判断基準だよおい。」

「表情・鼻息、大体この辺で分かります。人間は思ったより感情を隠しきれないものですよ。」


思ったよりちゃんとした判別方法だった。

一成くんびっくり。


「……はあ。なんかそこまで言われると風呂を貸さないのが申し訳なくなるな。」

「お、この流れは……!」


「風呂ならそこのドア入って右。洗面所のバスタオルとかドライヤーも適当に使ってくれていいから。」

「何から何まで…本当ありがとうございます!」


俺が変な男して見られてないというなら嬉しい話だし、ここまで腰が低いと断るのも気が引けるというものだ。


「……待て、そういやお前は何に着替えるんだ。この家に女物はないぞ。」

「体操着です。」

「そ、そうか良かった。」

「もしかして彼シャツ的なのしたかった感じですか?前言撤回、あなたは変態です。」


会ってまだ数十分。俺は変態認定された。


「は!や!く!入ってこい!」

「こわーい。おまわりさんタスケテー。」

「それ外に聞こえてたら洒落にならんから!風呂入ってさっさと帰れ!」


ようやく桜見は浴室へと消えていった。

まじでなんなんだあいつ……。




「すいません、制服干していいですか?」

「ダメに決まってんだろ。」




本当に分からない。












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