6・素を見せて

第14話


「……さと、千里、」

「……勇太?」

「あ、良かった…千里…死んだらどないしようか思うた…」

目が覚めたのは夜中のベッドで、眠り姫の目覚めを待ちわびた王子もとい夫は私の手を握り額へ掲げた。


「死なないよぅ…のぼせたのかな…」

「水飲んで、な、」

夫は私を起こして、グラスいっぱいの水に何かに付いてきたストローを挿して口に含ませる。

「ん…」

「パジャマ持って来たら倒れとって……息はあるし応答するから運んでん…いや、血管系の病気やったら危なかった、救急車呼ぶべきやった」

「うん…次はそうして……ぷは……ありがと…」


 甲斐甲斐しくて真面目なところもあるの、嫌いになりきれなくて辛いなぁ。

 たぽたぽの胃を摩ろうと思えば私はまだ丸裸のままだった。

「あ、裸だ」

「ごめん、寝てる人に服着せんのむずいねんな、初めて知ったわ」

「ん…」


 部屋にはアロマの余韻、差し出されたパジャマをとりあえず下着無しで身につけると夫は自分のベッドへ離れて遠巻きに私を見守る。

「千里、早まり過ぎた、ごめん。もう…千里が望む時でええから、望まへんかったら子作りの時だけでも…いや、最悪その…」

「……」

「やってもうた事は最低なことよ、なんの弁解もできひん…千里の好きなように…慰謝料も払う、好きに決めてくれ」


 離婚するということか、そりゃあそれが一番の解決策だけれど簡単にできないから悩んでいる訳で。

「なにそれ…勝手に…決めないでよ……私、勇太が好きだから、好きだからこんなに傷付いて……うぷっ…」

「おい、吐くか⁉︎」

「だいじょうぶ…う…飲み過ぎた、だけ…」

「そういや呑んだ後やったな、酒も残ってたんかもしれん」

「どうだろ…う……とりあえ、ず…寝よ、あの、私、別れたくは、ない、の…」

「分かった、喋らんでええ」

私の意見を聞けば安心したのか、胡座あぐらをかいた夫は手で口元を隠して顔の汗を拭いシャツに擦る。

 目はじんわり潤んでいるようにも見えた。深いため息を吐いては肩も上下している。


「好きなの、好きだから…上辺しか見せてないのが心苦しかったり…してきた、の、」

「うん、素を見してくれんの?」

「いつか…ううん、とりあえずすっぴんだけでも…」


 どうせ寝るには素顔にならねばならない。

 いつもは就寝する直前まで落とさない化粧を落として素顔を見せてやろうと、私が腰を動かせば夫は胡座の足を崩して立ち上がった。

「ええって、落ち着け」

「どっちにしても落とさなきゃ。そこの…化粧台にウエットティッシュみたいなのあるでしょ、貸して」

「これ?………ほい」

「ありがと」

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