第49話 山崎真と南川仁美
★side:山崎真
「まずい……これは本当にまずい……」
俺が弘識さんを置いて逃げてから気付けば30分近くになっていた。
逃げる事に必死になっていた俺は助けを呼ぶとか、警察に連絡するとかの考えは頭から完全に離れていた。
「どうすれば……」
あんな年上で強そうな人達に俺が敵うはずがない。
暴力が嫌いな俺は今まで殴られた事すらないしあんなに勢いよくこられて凄くビビってしまった。あの時の俺の頭の中には殴られる恐怖で一杯でとにかく逃げないとと思っていた。
でも原因を作ったのは俺自身だ……俺が石なんて蹴らなければあんなことには……
いや、でも車に傷なんてほとんどなかったし言いがかりも良い所だ。100万円なんてどう考えてもおかしいに決まている。
それにあんな場所に車を停めているのも悪いだろ……あの場所は駐車禁止なはずだ。
「いや、今はそれどころじゃないか…」
本当にどうしよう……弘識さんは無事なのか?
あの男たちに捕まった弘識さんがどうなるかなんて分かっていたはずだ。
それなのに逃げてしまった……
「確認しないと……」
現場に戻って……は止めよう。もしかしたらあの男たちが残っている可能性もあるし、そうなったら俺に出来る事は無いから……今からでも警察に……
でも弘識さんが逃げられた可能性もあるよな……いや、きっと逃げられたはずだ。
前に話したけど弘識さんがナンパを何回もされていたけど毎回逃げ切れたと言っていた。実際に弘識さんは女子の中では一番足が速いし大丈夫……だよな……それに警察に連絡したら俺が見捨てた事も説明しないといけないし……
「とりあえず連絡を取ってみないと……それでも返事が無かったら警察に……」
そう思った俺は震えている手で弘識さんに連絡を試みた。
無事でいてくれ……そう祈りながら。
『大丈夫?』
見捨てた手前どう言ったらいいのか迷ったが結局そう送った。
それから直ぐに既読になった。
「見れてるのか!?」
返信はまだないけど確認できているって事はスマホをいじれる環境に居るという事だ。
それだったら無事だった可能性が高い。
「やっぱり逃げ切れてたんだ……」
俺がそう呟いたと同時に返信が来た。
『大丈夫。たまたま通りかかった人に助けてもらった』
そうだったのか……あの後何があったのかは分からないがとにかく良かった。
その人が誰なのかは知らないが感謝しないとだな……
俺は弘識さんが無事だと知って一気に気が抜けた。
「そうだ!返信しないと」
そう思って俺は返信した。
『良かった……無事だったんだ』
『うん。大丈夫だから気にしないで。今ちょっと忙しいからごめんね』
「はぁ、本当に良かった……」
今思えばもし弘識さんに何かあれば責任は俺にあったはずだ……そう考えても弘識さんに何もなくて本当に良かった。
それにそうなったら俺が見捨てた事も広まる事になったしな……特に薫や南川さんには絶対に知られたくない……
何もなかったんだったら弘識さんが広めるなんて事はないよな……いやないはずだ。俺の知っている弘識さんはそんな事をする人じゃない。
それに大丈夫だから気にしないでって言ってるんだしきっと大丈夫だ。
それにあの状況だったら誰でも逃げるよな……弘識さんも分かってくれているはずだ。
「とにかく何事もなかったんだし、弘識さんも言ってた訳だ。もう気にするのは止めよう……弘識さんも俺に気遣って言ってくれたかも知れないしな」
でも明日から弘識さんに話しかけるのはちょっと気まずいよな……まぁ、弘識さんが気にしていなければ時間が解決してくれるよな?
「はぁ、とにかく今はもう考えないようにしよう」
考えただけでちょっと気が重くなるだけだし、気を紛らわせるためにも漫画でも見に行くか……普段は見ないけど友達におすすめさられてた物もあるし丁度良いしな。
◆
「はぁ、やっぱり買わなくて良いかな……」
俺はお店に着いてその漫画を見てみたが改めてそう思った。
アニメや漫画は好きでも嫌でもないけど、恋愛系の漫画を見る気にはやっぱりならない。
俺は二次元三次元に問わず他人の恋愛話には興味がない。
「これはダメだな……でもついでだし他の物も見てみるか」
俺がそう思って場所を移そうとした時だった。
「あれって……」
間違いない……アニメのグッズなどが置いてある場所に知っている顔の人がいた。
見間違えるはずもない……だってあの人は俺が毎日目で追っている人の内の一人だ。マスクを着けているが俺からした簡単に分かってしまう。
「南川さん……」
普段はしっかりしていてアニメとかには全然興味がないと思っていたのだが……意外だな。
その時俺は思った。これはチャンスだと。
南川さんとは薫や弘識さんと比べるとまだ距離があるのは感じていた。
俺はアニメが好きなわけではないけど、時々見るしより仲良くなるきっかけとしては十分なはずだ。
俺はそれから直ぐに足が動いていた。
「南川さん……だよね?」
俺がそう言うと南川さんは体がびくっと動いてこちらを見てきて、ちょっと気まずい雰囲気だったが弘識さんが返事をした。
「や、山崎……くん……」
「やっぱりそうだよね。南川さんってアニメ好きなんだね」
「そ、そんな事ないわよ……たまたま来ただけで……」
「たまたま来ただけでアニメグッズは買わないと思うけど……」
俺が恐る恐るそう言うと南川さんは諦めたように言った。
「そうよ……私はアニメを良く見るわ……」
「そ、そうだったんだ……」
「でもこのことは誰にも言わないで頂戴……誰にも知られたくなかった事だから……」
誰にも知られたくないって事は薫や弘識さんにも言っていないのだろうか?
そう思った俺は確認してみる事にした。
「誰にもって事は……もしかして薫や弘識さんにも言っていないの?」
「そうよ……家族以外ではあなたが初めてよ」
予想外だけどラッキーだ。
家族以外俺だけって事は二人の秘密という事だ。
俺以外にまともに話せる男子が居ないと言うのに更に秘密まで……
俺はそう思うと凄く嬉しい気持ちになった。
俺がそんな感情になっていたら南川さんが続けて言った。
「だから本当に内緒にしてちょうだいね?」
「分かってるよ。」
「それならいいわ」
俺は会話が終わりそうになったので、咄嗟に聞いた。
「そ、それでなんのグッズを買ってたの?」
「これは……今人気の恋愛アニメのヒロインのグッズね……」
「ヒロインの?」
「そうよ……別に女の子が女の子のグッズを買っても良いでしょ……」
まぁ、良く分からないがそういう人も居るって聞くしおかしな話ではないか。
俺からしたら男のグッズなんて欲しいとも思わないがな……
「意外だっただけでダメとは言ってないって」
「そう……だったらいいわ」
「因みにそのアニメって面白いの?」
「人気なんだから面白いに決まってるじゃない……」
「そうなんだ……俺も見てみようかな……」
「それは……好きにして頂戴……別に私には関係ないわ。それじゃあ失礼するわね」
「あ、あぁ……」
そうして南川さんは去って行った。
「まぁ、最初だしな……」
思ったよりも話せなかったけど確実に進展はしたと思う。
これをきっかけにどんどん関係を深めて行けばいずれは付き合える日が来るかもしれない……同じ趣味があれば仲良くなりやすいって言うしな。
それにアニメは嫌いじゃないし見る事も苦じゃないし。
「でも恋愛アニメか……」
嫌いじゃないけど恋愛アニメは見た事が無い。
まぁ、見てみるか……
月額を払えばスマホでも見れるし今日から少しずつ見てみようか。
一気見は出来ないだろうけど少しずつだったらさいごまでみれるだろう。
それでハマればなお良いしな……
南川さんと仲良くなれるかもしれないんだしそのくらい簡単だ。
「弘識さんの事もあったけどそっちは時間が掛かりそうだし丁度良いな」
弘識さんの事があって落ちていた気分は、南川さんと秘密を二人っきりで共有したことによって、既に良い気分へと変わっていた。
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