失われることで見える、『当たり前』な何かの尊さ

 静かな情緒に満ちた、とても素敵な物語でした。
 
 本作品の世界では、『夜』というものから闇が取り払われています。
 「ルナ2号」という人工的な第二の月を打ち出すことにより、世界中から『夜』が消え去り、一日中昼間のように明るい状態が作られる。
 そのために電力消費量が抑えられ、更に犯罪発生率も下がるなど、世の中はいいことづくめになったように見える。

 でも、本当にそれが幸せだろうか?

 夜という時間が失われたらどうなるか。その時間にしかない『何か』は確実にあるはずなんじゃないか。
 読みながら、ふとそんな問いが頭に浮かびます。そしてそれは、作中の主人公も同じように感じ取ることになります。

 夜にゆっくりと、この作品を読んでみることをオススメします。夜の時間がもたらす静謐感と優しさ、夜の空だからこそ見えるもの。
 そんな尊い何かを、再発見するきっかけになることでしょう。

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