第3話 小説 本好きの下剋上
〇総評
とにかく面白い、という印象です。 本作はマインの目的達成への道と下剋上の快感があります。それは平坦な道でなくいろんなエピソードが積み重ねられますが、その一つ一つがあとから考えると意味がわかるような構造になっています。結果的に「本好きの下剋上」のタイトルが回収され、大きなカタルシスが結末にはあります。
物語は基本1人称のマイン後のローゼンマイン視点で描かれますが、各巻の前後とショートストーリーで違うキャラの視点のエピソードが挿入されます。この構成で世界観と物語に厚みが出ています。
本作は、貴族社会と神・魔力・世界の関係性の設定は驚くほど緻密です。その点では、過去に見たなろう系の中で突出していると思います。
女性の原作の割にラブストーリー描写は控えめです。エピソードの積み重ねを分厚いものにしているのが、本作はキャラ付けがしっかりしていることです。これは貴族社会の設定の緻密さの裏返しでもありますが、その社会の中でどう生きるかという選択がキャラ達に常にあります。そのドラマの一つ一つが面白いです。
〇あらすじ…は全部書くときりがないので構造だけ。
第一部 兵士の娘
平民の中でも底辺社会の描写。商業の知識を得る、産業の立ち上げのきっかけ。お金を稼ぐ手段を得る。
第二部 神殿の巫女見習い
神殿社会の描写。孤児院を使った製本事業の産業化。識字率アップの教育に取り掛かる。
第三部 領主の養女
貴族社会の身分や家族関係の描写。エーレンファスト領の描写。産業の拡大。製紙、印刷、レストラン、かんざし・髪飾り、ポンプ式井戸など。ローゼマイン襲撃事件で2年間の眠りへ。
第四部 貴族院の自称図書委員
国全体の描写。ローゼマイン無双の本格的な展開開始。王族・上位領地の貴族とのお茶会などでの交流。流行の発信など。
第五部 女神の化身 神々と国の成り立ちの描写。女神の化身としてこの世界で一番偉くなる。本物のディッター、図書館都市の建設。
〇テーマ
この作品はテーマを抽出するのが難しいです。それは本筋の本づくりと下剋上そのもののストーリーがしっかりしすぎて、物語そのものを咀嚼するだけで十分満足できるからです。ローゼマインそのものだけ見ると、一種の俺TUEEEの無双ものと見えなくはないです。ローゼマインは無敵でも最強でもありませんが、結果的に大きな展開そのものは単純と言えば単純です。
ですが、この作品が分厚いのは貴族社会の描写と、神々に祈る意味が想像よりも密接に物語に関連してくることです。
窮屈で制約が多い貴族社会の中で、主人公ローゼマイン以外の特に学生のキャラたちが「どう生きるか?」という問題と常に隣り合わせで自分事として考えながら生きています。貴族としての身分、家族関係、魔力量などで決まる結婚相手と職業。選択肢がほぼない中でも、自分の適性と自分の立ち場でどうすれば一番いいのか、を常に考えながら生きています。
それは大領地のお姫様であるエグランティーヌ、ハンネローレをはじめ、ローゼマインの妹のハンネローレ、側近のブリュンヒルデ、リーゼレータ、フィリーネ、大領地からローゼマインに使えるべく乗り込んできたクラリッサ、平民であるトゥーリ等々それぞれが自分の生きる道を模索しています。
「女性は社会や家族制度のために子供を作るマシン」に見えなくはないです。これが意図的かどうかですね。
原作者は中世ヨーロッパのロンドンやパリなどに詳しい気がしました。というのは平民の生活の不潔さ、排泄物や屠殺などの生臭い感じの描写が丁寧です。また、貴族と平民の圧倒的な階級差、貴族のエライさんが決して一人で行動しないところなどリアリティがすごいんですよね。つまり、そういう時代の造形が深いということでしょう。大学のヨーロッパ系の文学とか史学、民俗学をやっている人かなと思ったくらいです。
そういう知的水準が感じられる設定です。たまたまそういう物語になったとは考えられません。あえて、不自由の中で女性の職業や生き方に焦点を当てている印象を持ちました。
そういう知的水準の原作者ですから、この貴族制度の不自由さの描写の丁寧さから、実存主義的な「自由という牢獄」構造主義の「構造の奴隷」という哲学的な知識もある気がしました。今の時代、自由こそ最高、個人の権利絶対というときの自由や個人の権利というのは、結局は社会や他者によって決められています。それを勘違いしている状況に一石を投じている気がしました。
それを感じるのが、神々です。つまり、動かすことのできない仕組みです。この作品において神々は我満で理不尽で、理解不能です。つまり、自然であり社会のアナロジーです。この自然と神の関連は物語の中核をなします。
伝統や行事と社会の構造が実が密接につながっている。それを忘れて、伝統を軽んじたが故に国が荒廃し、生産性が落ちるというのも一つのテーマになります。人間が神に祈ることをわすれるから、国が衰退する。その復活はストーリーの幹として貫かれます。
単純な環境問題ではなく、やはり「構造」つまり自然や社会によって人間は定義され活かされているのだ、という感覚を強く抱きました。
そして何よりも家族・家族愛を描いています。ローゼマインの行動原理の一つで、この点では本づくりよりも家族でした。もちろん物語としてそれは素晴らしいですし、現代の家族の喪失に対するメッセージも感じました。
〇感想
はじめはローゼマインが一直線に本づくり、図書館づくりに進む。その過程で本当に下剋上する。それが面白い作品でした。初回はその面白さで一気読みに近い感じで読み切りました。
ただ、作品の構成、サブキャラのエピソードの使い方が上手く、ローゼマインの主観ではない客観的な情報や他人の情報が上手く物語を補完しているんですよね。それがおもしろくて読み込んでいたら、その世界観の一貫性に関心し、そして、現代社会の批判になっている部分があるなあ、と感じました。
面白ポイントやキャラを列挙するときりがないです。私が一番気に入ったのは、ブリュンヒルデやアンゲリカと言いたいですが、実はミュリエラが最高でした。なんか可愛かったです。
レビューはこの数倍の分量がかけそうです。随時更新して行くと思います。
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