第47話 魔界の悪魔
ナナシとキサメが魔界のバーで情報集めをしている時に突然数人がバーに雪崩れ込んで来た。
何事かと思って見てみるとどうやら二組の集団が喧嘩をしている様だった。
人間の喧嘩ではない悪魔の喧嘩だ。その力も破壊力も人間とは桁違いだった。
確かにこんな者達と戦うとなったらたまったものではないなとキサメは思った。
そう思ってナナシを見てみるとどこ吹く風で悠然と食事をしていた。
こんな時に何やってるのこの人はとキサメは思ったがやはりナナシはナナシと言う所か。
取っ組み合いになった二人がキサメ達のテーブルにぶつかりテーブルが木っ端微塵に吹き飛んだ。
しかしナナシはちゃんと皿を抱えてを回避していたがせっかくの食事の時間を邪魔されたと怒っていた。
後はバーの中で小さな竜巻が舞い上がった。
喧嘩をしていた8人の悪魔は全員バーの外に吹き飛ばされボロ雑巾の様になって動けなくなっていた。
当然ナナシの仕業だ。どうやらナナシは食事の邪魔をされるのが一番嫌なようだ。
「あ、あんた凄いな。あいつらはこの町でも鼻つまみのならず者なんだ。いつも縄張りを巡って喧嘩をしてるんだ。しかしあんた、そんなに強いのならこの地区の傭兵に応募してみたらどうだい。今強い傭兵を募集してるらしいぞ」
客達の話によると前回の戦争でこの南地区の兵隊が大分死んだので今緊急で募集しているらしい。
それは前回の地区戦争で西地区の連中に南地区の兵隊達が相当数殺されたらしいので今後の人間界進出に備えて急遽兵員の増強を図っているそうだ。
ナナシはそれは面白いと思った。もしその中に潜り込めればもっと戦力の詳細が掴める。
バーの客に詳しい情報を聞いてナナシはその兵員の募集に応募してみようとキサメに言った。
翌日ナナシとキサメは近くの軍の駐屯所に出かけ傭兵に応募した。取り合えず名前はナナシがナム、キサメがメムとしておいた。
普通傭兵と言うものは何処まで行っても傭兵で正規兵になれる事はない。
しかし今回は相当兵力が枯渇しているのか、成績次第では正規兵への道も開けると言う謳い文句だった。
それは正規兵の方が良いに決まってる。所詮傭兵などと言うものは使い捨てだ。
いつも最前線の危ない所に送り込まれどんなに手柄を立てようが最初の契約金以上の物が出る事はない。
それに引き換え正規兵ならより安全な配置につけて、その上成績次第では報償も出るし昇級も出来る。つまり使い捨てではなくなると言う事だ。
まるでこちらの世界の今の社会の様だ。
しかしそうは言ってもここは魔界だ。命の値段は安い。
やはりここでも入隊に関しては試験があった。ただ職種は傭兵だ。筆記試験の様なものはない。ただ戦闘の試験があるだけだ。
どれだけ強いか試される。それだけだ。弱ければ死ぬ事もある。ここは魔界だ、それ位当然だろう。
ナナシもキサメも試験に合格し傭兵としての職を得た。
しかし二人は女だ。この世界でもその手の事は同じだったがそこは二人とも実力で排除した。
ナナシ達を襲うとした者達は全員足腰が立たなくなるまで叩きのめされた。
それ以降この二人に手を出そうと言う馬鹿は一人もいなくなった。
二人が見た所傭兵の中にはそれ程強い者はいなかったが、正規兵の中でやはり上官クラスになるとそこそこの強さだった。
部隊長クラスで冒険者で言えばAランクか。軍団長ともなればAランクを超える。その辺りは魔界将クラスだ。
そして魔界将軍、これはもう別格だ。人間界でのSSランク以上と言っても過言ではないだろう。
そんなバケモノが一つの地区に5人もいると言う。
更にその上にいるのが四天王だ。4人の四天王が東西南北の各地区を統括している。
その力はもはや勇者クラス。勇者でなければ倒せない相手だ。ただし完全な勇者でならだ。
今のキサメ達の様な名前だけの勇者ではとても相手にはならない。それ程の強さだ。
更にその上に魔王がいる。一体どれ程の強さなのかキサメには想像もつかなかった。
しかしこれは考えても仕方のない事だ。一つずつぶつかって強さを確認して行くしかない。
軍の訓練でナナシ達は毎日実践訓練をやっていたがキサメは自分でも知らない内に相当上のランクまで来ていた。
自分でもまさかと思いながら軍団長と互角に戦えるまでになっていた。これは自分でも驚きだった。
恐らくナナシの修業が実を結んできたのだろう。
一介の傭兵が軍団長とタメを張るなどかってなかった事だ。しかもそれが二人もいるとは。
ある日二人は軍団長に呼ばれた。
1週間後に地区対抗戦があると言う。そこに出場しろと言う事だった。
これは戦争ではない。昔ならいざ知らず今は魔王を得て魔界は一枚岩になっている。
だからこれは意気と戦闘技術を上げる為の対抗戦だった。とは言え互いの面子が掛かっている。どちらにしても負ける訳にはいかないのだ。
しかも今回の相手は西地区、かって戦争をした相手だ。その時は残念ながら西地区に敗北した。今回はそのリベンジだ。
どうしても負ける訳にはいかなかった。ただ前回の戦いで多くの戦士を失って戦力不足だったが今回は幸運にもこの二人がいる。これなら勝てると軍団長カスゲルは思っていた。
対抗戦は5対5の勝ち抜き戦だ。軍団長や部隊長クラスは出る事が出来ない。あくまで戦士同士の戦いとなる。
出場するのは傭兵クラスからナナシとキサメの二人、そして正規兵から上官クラス3人が出る事になった。
しかし実力から言えばナナシ達の方が正規兵達よりも上だ。だから大将がキサメ、副将がナナシ、そして中堅はカトング、次鋒はグルーゼン、先鋒がカルクの順になった。
何故ナナシが大将ではないのか。それはナナシが力を押さえてキサメよりも実力を隠していたからだ。
これは言ってみればキサメの修練の一端でもある。だからナナシはキサメにはいつも全力を出してぶつかってみろと言っていた。
ここで勝てなければ到底魔王討伐などは出来ない。キサメはナナシには自分の本当の身分は隠していたがナナシは既に見抜いていた。
だからこそ何処まで通じるかキサメにはここで全開で戦わせてみようと思っていた。
相手の出場選手の素性や力、技の程はわからないが、こちらの先鋒カルクは戦闘専門で力で攻めるタイプだった。
次鋒のグルーゼンも戦闘専門だがこちらは速さを信条にしていた。部隊最速と言うのがふれこみだ。
そして中堅のカトングは魔法使いだ。ここにきて初めて魔法使いが出てきたが本来悪魔は魔法が得意な種族だ。
それも人間では滅多に使い手のいない闇魔法を得意としている。
このカトングがどの系統の魔法を使うのかは定かではないがこれもまた興味があるとナナシは思っていた。
副将のナナシ、ここではナムと名乗っているが彼女は魔法使いとして登録していた。
そして最後の大将キサメことメムだが彼女は剣士だ。しかし剣士とはこの魔界では滅多にいない職業だ。
魔力の強い悪魔達にとって重要なのは魔法と強化筋力だ。剣など所詮補助武器に過ぎない。
特殊なものを除いてこの魔界に普通の剣士など存在しないと言うのが常識になっていた。
そう言う背景を背負ってナナシ達は遂に地区対抗戦に出場する事になった。
試合場となったコロシアムには双方の責任者達が集まる。ただそこに四天王や魔王は参列しない。
魔界将軍が最高位となる。双方の魔界将軍各5名が招待されていた。
勿論その西の魔界将軍の中にはカロールとガルーゾルもいた。
さてこの戦いは一体どう言う結末を生むのか楽しみだ。
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