第33話 教会騎士団の実力
ゼロとカロールはメルチを連れていつもの様に薬草採取に近くの森まで来ていた。
この森でも少し奥に入るとそれなりの魔物も出て来る。だから冒険者に取っては良い稼ぎ場の筈だがそれが今では出来ないと言う。
それは教会の騎士団が訓練にこの場所を使ってしまうかららしい。ゼロ達が森に入って行くとかなり多くの人の気配がした。
それは教会の聖騎士団達だった。どうやらあの冒険者が言っていたように魔物相手に訓練をしている様だ。
しかしその相手をしている魔物はどう見てもDランクレベルの魔物だった。これなら並みの冒険者でも簡単に倒せるだろうと思われた。
ゼロ達の存在を見つけた騎士の一人が近寄って来て、
「貴様らここで何をしていおる。ここは我ら騎士団の狩場だ。出て行け」
「おかしなことを言う、この森が騎士団の所有物だとは聞いた事がないが。冒険者ギルドでもここは自由な活動範囲だと認定しているはずだが」
「黙れ無礼者め、成敗するぞ」
そこに責任者と思しき人物がやって来て、
「そこで何をしておる」
「はい、班長殿、この者達が我ら訓練の邪魔をしようとしておりましたので説諭しておりました」
「随分と勝手な言い分だな」
「何を生意気な、言葉を慎め、処分するぞ」
「まぁ、待て。その方達は何者だ」
「俺達はただの冒険者だ。ここには薬草採取にやって来ただけだ。別にあんた達の邪魔をする気はない」
「薬草採取だと。女子供のする事をお前達の様な大人がやっておるのか、冒険者のレベルとはそんなものなのか、下らんな。さっさと邪魔にならん所に消えるがよい。今日の所は見逃してやろう」
「おい、ヒューマン、あんな無礼な事を言わせておいていいのか、あたちが殺してやろうか」
「気にするな、屑を相手に怒って見ても仕方ないだろう」
「しかし、しかし、許せんのだ」
「おい、カロール、こいつを何とかしろ。うるさくて仕方がない」
「メルチ、お黙り」
「はい、お師匠様」
「それにしても随分な態度よね、あたしでも多少は頭に来るわ」
「そうだな、ではちょっとお灸をすえてやるか」
「どうするつもり」
「まぁ、見てろ」
そう言ってゼロは一人森の奥に入って行った。
どうせ訓練だ。それなら訓練に値する対象物でないと訓練にはならんだろうとゼロが選んだのはクレイ・ウルフだった。
クレイ・ウルフはCランクの魔物だが集団になるとBランクでも倒すのが難しくなる。それも複数のパーティが必要になる。
この辺りでいいかとゼロはそのクレイ・ウルフの集団を駆り立てて騎士団に向かわせた。
騎士団では突然の魔物の襲撃に慌てふためいていた。陣形も何もあった物ではない。指揮官本人が慌てて何も指示が出来ずにいた。これで騎士団とよく言うとゼロは思っていた。
クレイ・ウルフが通り過ぎた後、騎士団には多くの怪我人が出ていた。死んだ者も数人いた。
この程度で済んだのはクレイ・ウルフが恐怖から逃げていたからだ。もし本気で敵対していたらこの程度ではすまなかっただろう。
しかもこの騎士団、ポーションの一つも持ってない様だ。そんな状態で森に入るなど森を舐めているにも程がある。
そこに現れたのはゼロ達だった。
「どうしました騎士の皆さん、大分怪我人がいるようですが薬はお持ちですか」
「いや、持ってはおらん。そなたら持っておるなら少し分けてはもらえんか」
「さっき言ってましたよね。薬草採取など女子供のする事だと。でもね、薬草の知識があって初めて森で魔物と戦えると言う事を知ってますか。それも知らずに森で狩りをする、俺に言わせればそれこそ騎士団のレベルとはそんな物かと言う事ですよ」
「き、貴様」
「俺は別にどっちでもいいんですよ。何もあんた達に薬を分けてやる義理はない。誰か助けに来るまでそこにいるんですね」
「ま、待ってくれ。さっきは言い過ぎた。俺が悪かった。出来れば薬を分けて欲しい」
ゼロとカロールは怪我人の手当てをして薬を飲ませてやった。これで化膿する事も熱が出る事もないだろう。
この点カロールもゼロと一緒に冒険していただけあって治療の仕方や薬の使い方は心得ていた。
「凄いです、お師匠様はそんな事も出来るんですか」
「これもこいつに教えてもらったのよ」
「ええっ、このヒューマンにですか」
「お前もな、ごちゃごちゃ言ってないでちゃんと薬草の扱い方くらい学べ」
バチ!「うーうー、痛いです」
「かたじけない。わしはここの班長を務めるゲンドーと言う者じゃ。先ほどは本当に失礼いたした。お陰で多くの者が助かった。重ねて礼を申す」
「薬草の大切さが分かってもらえればそれでいいんですよ」
「そなたらはいついも薬草を採取しておるのか」
「いつもではないですかがね。普通の魔物討伐もやりますよ」
「お主たちの冒険者レベルはどれ程なのだ」
「俺がCで相棒はBです」
「そ、それ程のランクを持っていながら薬草採取をやっていたと申すか」
「薬草採取に限界はないんでね」
「そうであったか、恐れ入った」
「ところでここに勇者様はおられないのですか」
「勇者様方は我らとはレベルが違うので今頃は『夢見のダンジョン』と言う所を攻略なさっておる事だろう」
「『夢見のダンジョン』ですか。難しいダンジョンですね。ところで勇者様は何人いらっしゃるんですか」
「確か6人、いや、5人じゃ」
「皆さん凄いんでしょうね」
「ああ、凄い方々じゃ、わしらでは足元にも及ばん」
「そう言えばこちらには伝説になっていた護神教会騎士団の団長ミレウ様と言う方がおられたとか、その方と比べてどうですかね」
「ふむ、わしらはそのミレウ様については詳しくは知らんのだが、現団長のハルメル様によればまだミレウ様の方が上だろうと申されておったのう」
「そうですか、そのミレウ様はお亡くなりになったんですよね」
「ああ、ご立派な最後じゃったと聞いておる。我ら人類を守る為に邪神と戦われて合死にされたとか」
「そうですか立派な方だったんですね。色々ありがとうございました。では我々はこれでギルドに戻ります」
「さようか、何かあればいつでも相談に乗るぞ」
「はい、ありがとうございます」
これでゼロは少しは勇者の技量が測れると思った。この前倒した勇者が最低ラインとしてもミレを超えないのならそこまで恐れる事もないだろうと思っていた。
「あのさー、ちょっと引っかかる事があるんだけど」
「何だ引っかかる事って」
「その護神教会騎士団団長ってあんたの腕を切り落とした者じゃないの」
「そうだ」
「じゃー何故それが邪神と戦った事になってるのよ。あんたって邪神だったの」
「んな訳ないだろう。俺が邪神って柄か」
「不思議とはまらなくもないのよね」
「おい」
神に取ってイレギュラーでこの世の摂理を乱す存在、それは邪神と言っても良いのかも知れない。
そしてミレはそれを倒し殉教した救世主になっていた。
『クソ神の奴も色々と考えてくれるもんだ』
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