第30話 遂に聖教徒法国へ

 ゼロ達は更に荷馬車の運行を進め、聖教徒法国までの距離あと2日と言う所まで来てた。


 ここまで来ればもう殆ど終わったようなものだ。幸にしてあれ以降の山賊の襲撃はなかった。


 この前の様な事になってはいけないと言う事で今回は追加の護衛も雇わずにゼロとカロールだけでやって来た。


 ゼロ達にしてもこの方が守り易いし戦い易くもあった。それはお互いに双方の力を信頼していたと言う事になる。


 それはそうだろう。「死神」と「悪魔」を襲うなどと言う馬鹿は地獄への道まっしぐらしかないだろう。


 ここへ来るまでの間。夜は各地の宿屋に泊まったが、昼間は街道少し離れた所で馬車を止めて昼食をすると言う事が良くあった。


 その都度ゼロはメルチを使って森に枯れ木を取りに行かせたり、水を汲みに行かせたり散々こき使っていた。


「貴様、あたちを何だと思っている。あたちはカロールお師匠様の弟子だぞ。あたちを気軽に使うなヒューマンめ」

「お前はカロールの弟子だろう。なら師匠の為に働くは当たり前だろう。文句を言わずに働け」

「お、お師匠様、このヒューマンがこんな事を」

「黙って仕事をおし、メルチ」

「はい、お師匠様」


 森の生活に慣れてるゼロとカロールは実に手際よく、森の近くの空き地で馬を休ませ、森で狩った獣で昼食の準備をした。


 これにはゴルメルもその従業員達も驚いていた。まさか人間が森の近くで、しかも森で食料を調達して食事が出来るとは思ってもみなかったからだ。


「皆様方は一体何者でございますか。森でこの様な事の出来る方は初めてお目にかかりました」

「俺達はただの冒険者だ。これくらい普通だろう」

「とんでもございません。森をこれほど熟知されている冒険者様など滅多におられません」


「みんな安易な生活に慣れてしまったせいだろう。だからこの前のような堕落した冒険者が出来る事になる」

「そうかも知れませんね。今回初めて本物の冒険者と言われる方々を見させていただいた気がいたしました」

「気にするな。俺達は俺達の仕事をしているだけだ」

「はい」


 そして一行は最後の宿泊地に着いた。ここを超えれば次は聖教徒法国だ。


 この町ボルツは山間の町でこれと言った特徴もない町だった。


 ただここが聖教徒法国への最後の町となるので旅人や商人達には必要な場所だったのでそれなりには栄えていた。一応一通りの物は揃っている様だった。


 ゼロはこの町でただ一軒と言う薬屋に来ていた。そして中を覗いて驚いた事は、この町の規模と質にしては驚くべき品揃えだった。


 この薬草や薬は全てあんたの所で作ったのかと聞くと半分はそうだが後半分は近隣の村から来る村人から買っていると言う事だった。


 この町の周辺には四つの小さな集落があると言う。数年前それらの村々は流行病で死に絶える所を一人の薬師によって救われたと言う話だった。


 そしてそれらの村では薬草採取の仕方や、簡単な薬の作り方をその薬師から学んだそうだ。


 そこの村人がこの近隣では手に入り憎い薬草や薬を持って来てくれるのでそれらを買い取ってると言う事だった。


 ゼロは薬草の質や薬の出来栄えを調べてみたがそこそこの出来だった。これなら十分に商品として店に並べる事が出来るだろう。


 丁度その時、入り口のドアが開き、一人の村人が入って来た。


「ドレスラーさん、いるかい」

「やあ、ハース待ってたよ。今日は何を持って来てくれたんだい」

「うん、生脈草と言う薬草でね、体の疲れをほぐしてくれるんだ」

「ほー、それは良さそうだね、じゃー、一回試してみるかね」

「ああ、それで良かったら買っておくれよ」


『ほー生脈草か。また珍しい薬草を。それにしてもそんなものを良く知っているものだ』


 これはゼロでも見つけるのが中々難しい薬草だ。普通の冒険者ではまず無理だろう。


 そして何気なくその村人を観察してみると、腰にあるパックを吊るしていた。


「あんた、その腰に吊るしている物は何だい」

「ああ、これかねお客さん。これは薬草パックと言ってね。怪我や病気になった時に使う緊急薬箱みたいなもんだな」

「これをあんたが作ったのかね」

「いや、村を救ってくれた薬師様に教えてもらったんだ」


 その薬草パックは余りにもゼロマが身に付けていた物によく似ていた。


 しかしこの周辺の村々が流行病に侵され、薬師に救われたと言うのはゼロマが死んでからの話だ。では一体誰がそれを教えたのか。


 その村人の話では人族の薬師様だったと言う話だが、姿形は良く分からなかったと不思議な事を言ってた。


 ゼロは「何だそれは」と思った。まるで意識誤認魔法でも掛けているような。


 そして村人達を救った事に対する報酬は何も受け取らずに村を去って行ったと言う。


 仮に何かお礼をすると言ってもそれらの村は当時貧乏でその薬師様に与えられる物は何もなかったとの事だった。


 しかし今では薬草や薬を地方に行商に出かけて村として生計が立つようになったと言っていた。


 まぁいい、薬草と薬は本物だ。それだけ分かればいいかと思いゼロはその店を出た。奇特な御仁もいたものだと。


 翌日ゼロ達は最後の旅に出た。このまま順調に進めば午後には聖教徒法国に辿り着くだろう。


 聖教徒法国と言うのはゼロに取っても懐かしい国だ。ここはミレの生国だった。


 と言ってもミレは小さい頃に闇の奴隷商人達に攫われ、逃げて森に棲み、後は救われたゼロと共に放浪の旅をしていたので、この国の事もミレの両親の事も何も知らなかった。


 ただこの地でミレの叔母に当たる人と出会い、ミレは初めて自分の事を知る事になった。


 後はこの国で生きて聖教徒法国の護神教会騎士団団長と言う地位に就き人類最強の騎士になった。


 しかしそれはもう100年も前の話だ。今では彼女の事を知る者ももういないだろう。


 そう思ってゼロは境界の門を潜った。


 ここも人獣大対戦で獣人側に敗れ獣人の国となったが、町そのものは以前と同じだった。そして今は再び人族の手に戻っている。


 確かにこの国が人族の手に戻った。ただ聖教徒法国に商品を届けるゴルメルの話によれば、そこはやはり依然と同じ人族優先主義の国だと言う話だった。


 やはり国の体質と言うものはかわらないと言う事か。


「どうしたカロール、緊張してるのか」

「でもないけどさ、ここはあたし達に取っては鬼門の地だからね」

「鬼門?そうかここには光魔法を使う者がいたんだったな」

「そうなのよ、教会の魔導士だけどね。でも今はもういないと思うんだけどさ」

「そうだな、あの大戦で高位の魔導士はみな死んだと言う話だったからな」


 しかし本当にそうだろうかとゼロは疑問に思っていた。


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