ちもにくも

マリエラ・ゴールドバーグ

第1話

 俺は肉が好きだ。

 鶏肉、豚肉、牛肉、羊肉、馬肉、猪肉、鹿肉、鰐肉、鯨肉、駱駝肉。エトセトラ。

 この歳にしてはありとあらゆる肉のありとあらゆる部位を食べてきたと自負している。

 この性癖は正しく生まれつきのものであると自分では思う。物心ついた時から何をおいても肉ばかり好んで食べていた。それにしばらく肉を食べないでいると体の調子も精神の調子も崩してしまうことさえある。

 とにかくいかなる時も肉が食べてくて仕方がなかった。

 実家にいる頃は少ない小遣いを貯めて買うスーパーの焼き鳥やおつまみのビーフジャーキーなどを食べてそれなりに満足していた。しかし成長して知識が増えるにつれ、普通に手に入る肉では満たされなくなってきた。とはいえ子供だった俺に牛や鶏や豚以外の加工肉を入手する手段はなかったので我慢するしかなかった。

 だから大学生になり実家を出てバイトを始めてからというもの、俺の肉食生活には拍車がかかった。ジビエ料理を出す店に行ってみたり、ゲテモノ料理を扱う店に行ってみたり。

 満たされていた。

 あの息苦しい実家から逃れ、仲のいい友人がいる大学へ通い、肉の次に好きなゲーセンでバイトをして、大好きな肉を食べる。

 この上なく満たされていた。

 そのはずだった。

 幸福というものはいつかは慣れてしまうものらしい。さらにもっともっとと求めてしまうものらしい。

 ある時、俺の脳裏にふとこんな考えがよぎった。

 そういえば人間の肉って美味いのか?

 一度考え始めたらもう止まらなかった。人肉食に関する書籍を読み漁り、味の想像をし、どんな風に調理しようか思考を巡らせた。

 年寄りは若者の方が美味そうだとか、痩せすぎは良くないが、かといって太りすぎもそれはそれで食い出が無さそうだとかどうしようもない妄想をした。

 さらには試しに自分の肉を食べてみようかとも考えたが、やめた。昔から喘息持ちで服薬を繰り返していた自分の肉が美味いとは到底思えなかったからだ。

 結局、俺は諦めた。現実的に考えて人肉なんて手に入らない。いや、もしかしたら手に入れられるのかもしれないがそれはきっと違法だ。俺はこの欲求のために犯罪行為に手を染めるつもりはなかった。

 までは。


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